アメリカの著名な認知心理学者、ドナルド・ノーマンはミスの発生メカニズムを人間の認知プロセスから説明するATS(アクティベーション・トリガー・スキーマ・システム)モデルを発表した。スキ―マとは過去の経験や外部環境について構造化された知識であるが、ここでは身体が覚えた記憶(スキルのようなもの)。アクティベーション(活性化)は記憶、知識、スキーマが直ちに利用可能な状態に変換されることを意味している。ATSモデルでは、行為(運動、発言)の記憶もスキーマとして蓄積され、行動の意図に応じて活性化され、トリガーとなる信号によって実行される。
例えば、『ご飯を食べる』のスキーマには『左手で箸を持ち』『右手に茶碗を持つ』『箸でご飯をとる』などのスキーマがある。これも前の動作が終わることがトリガーとなり次の動作が自動的に実施される。
下は『研究室』に関するスキーマである。『研究室』と言えば、学内の屋内にあり、机、いす、本棚が並び、パソコンなどを使い、先生や学生が研究している情景が浮かぶ。これはスキーマとしてまとめられ、構造化された知識により想起されるものであり、実際の研究室を見なくてもある程度想像することが出来る。このようにスキーマの働きにより周囲の環境を認識する労力を省くことが可のであるが、スキーマにより実際には存在しないものを『ある』と錯誤したりすると言った日正確な認識をしてしまう場合がある。

スリップは「意図の形成」「スキーマの活性化」「スキーマのトリガリング」の各段階で起こる。スリップの種類としては,意図の細部について十分に内容を明確にしていなかった記述エラー,状況の把握を間違えて意図通り行われたが,結果的に誤るモードエラー,意図した行動が類似したより実行頻度の高い行動に置き換わる捉われエラー,習慣に結びつけられた行動を類似の状況が生じた時に意図に反してしてしまうデータ駆動エラー,韻の類似した語頭を入れ替えて発声してしまうスプーナリズムがある。
