CONTENTS コンテンツ

テレビはなぜ「鬼界カルデラ」を語らないのか?~群発地震に潜むもうひとつのリスク~

心理学

2025.07.04

 最近、鹿児島県・十島村周辺で群発地震が続いています。ニュースでは「南海トラフとは無関係」「津波の心配はない」と専門家が説明する様子が繰り返し放送されています。確かに、その説明は事実に基づいています。しかし、私はこの説明に大きな違和感を持ちました。なぜなら、“最も注目すべき火山リスク”である「鬼界カルデラ」の存在が、一切語られないからです。

【鬼界カルデラとは何か?】 鹿児島県の南方、十島村の海域に位置する「鬼界カルデラ」は、約7,300年前に九州を壊滅させた超巨大噴火(VEI7)を引き起こした火山です。この噴火(鬼界アカホヤ噴火)は、南九州の縄文人文化を一時的に消滅させ、火山灰は東北地方にまで達しました。現在もこのカルデラの活動は完全には終息しておらず、地球規模の火山学の中でも最も警戒すべき対象の一つとされています。

【なぜテレビは鬼界カルデラに触れないのか?】 一見、不自然に思えるかもしれませんが、背景には複数の「バイアス」が関与しています。

◆ ① 正常性バイアス 人間は自分にとって都合の悪い情報や想像を受け入れたくない傾向があります。テレビや解説者も無意識のうちに「過剰な不安を与えたくない」「視聴者が混乱するから」という理由で、“本当に怖い話”を避けてしまうのです。

◆ ② 確証バイアス 現在の群発地震の震源が「30~50km」とやや深いため、地震専門家は「これはプレート境界型の地震だ」と判断します。そうすると「火山とは関係ない」という解釈を補強する情報ばかり集めてしまい、火山リスクの可能性が視野から外れるのです。

◆ ③ ステレオタイプ・バイアス 「噴火=浅い地震が前兆」という固定観念に縛られていると、深部のマグマ活動のような“新しいタイプの兆候”を見逃しがちになります。実際、破局噴火は数千年~1万年単位のサイクルであり、近代観測だけでは見えないものが多く存在します。

【私たちに必要なこと】 今、私たちに必要なのは「恐れること」ではなく、「知ること」です。鬼界カルデラは、現代においても破局的噴火の最有力候補とされており、政府の有識者会議でも警戒対象に明記されています。

十島村の群発地震がすぐに噴火につながるという証拠は現時点ではありません。しかし、マグマの供給が深部で進んでいる可能性があるならば、**“何もないことを願いながら、万が一に備える”**という態度が、現代人に求められている防災姿勢ではないでしょうか。

【結び】 テレビが語らないなら、私たちが語りましょう。 鬼界カルデラがもたらす未来は、決してフィクションではありません。事実とリスクを直視し、「考えたくない」から「考えよう」へ。今こそ、防災リテラシーの本質が問われています。

(筆者:濱口労働安全コンサルタント事務所/安全心理学研究)

この記事をシェアする