
通勤途中、最寄り駅までの道のりで見かけるある流通センターの建設現場。いよいよ仕上げの段階に入り、建物は完成間近の様子です。しかし、現場の様子をよく観察すると、いくつか気になる点が見えてきました。
まず、現場事務所はすでに現場から離れた場所に移設されており、作業員の方々はそこから横断歩道を渡って現場に向かっています。出入口には一応「足拭きマット」が設置されているものの、機能しているとは言い難く、現場出入り口付近は泥で汚れ、歩道まで白く染まっていました。歩道なんだからいいだろうと感じる方も多いのかも知れませんが、公共工事に長く携わってきた身からすれば、歩道を工事で汚すことは、付近の環境を工事で汚すことになり、許されませんでした。
無残な植栽と荒れた休憩環境
この現場は、着工時に美しく整えられた植栽が特徴でした。ところが今では、その植栽は手入れされることもなく、雑草に覆われて無惨な姿になっています。工事終盤に差し掛かると、こうした部分に対する意識が希薄になりがちですが、それが現場全体の印象に直結してしまうのです。
さらに気になったのは、作業員の昼休みの過ごし方です。かつては設けられていた休憩所もすでに解体され、作業員たちは自分の車の中で休憩をとっている様子でした。夏場や冬場であれば、車内は決して快適とは言えません。
これは、現場の最終段階において「環境整備」の優先度が低くなってしまっていることの現れでしょう。
所長の意識が現場を決める
私はかつて、公共工事の現場所長として、常に「職場は作業員の方々に支えられている」という意識で現場に立っていました。
- 休憩時にはしっかり身体を休めてもらえるように環境を整備する
- 作業中には集中できるよう、騒音・動線・清掃に気を配る
- 季節に応じた冷暖房、給水設備、衛生環境を整える
- 一人ひとりに声をかけ、労いの言葉を忘れない
これらはすべて、「作業員の皆さんがこの現場で安全に、気持ちよく働けるように」という想いからでした。所長のこうした姿勢は、現場の空気を明らかに変えます。
今の現場が教えてくれること
通勤中に見かけるこの現場は、決して「事故が起きている」とか「作業が遅れている」わけではありません。しかし、環境の乱れ、整備不足、作業員への配慮の欠如——これらはすべて、現場所長の意識の表れであると感じます。
現場の雰囲気、安全意識、作業の効率、それらをつくっているのは「所長の考え方」そのものなのです。
最後に
工事現場は、図面だけで完成するものではありません。人の手が動き、人の心がそこにあるからこそ、良い現場が生まれます。
その中心にいるのが所長です。所長の姿勢が、現場の空気をつくります。もし今、現場の環境が乱れていると感じたなら、それは現場全体からのサインかもしれません。
所長のひと言、ひと工夫が、作業員の心に届き、現場を変えていきます。
濵口労働安全コンサルタント事務所