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5Sは組織のレジリエンスを育てる――現場に根づかせる学びの仕組み

SafetyⅡ

2025.09.01

整理・整頓・清掃・清潔・しつけ――いわゆる「5S」は、かつて“工場の美化活動”として受け取られていた時期もありました。しかし、いま改めて5Sの意味を問い直してみると、それは単なる清掃活動ではなく、現場にレジリエンス(しなやかに立ち直る力)を根づかせる学習プロセスであることに気づきます。

1. 整理(Seiri):不要なものを取り除く

学習目標:対処能力の向上

私たちは、トラブルが起きたときに「すぐに対応できるかどうか」で結果が大きく分かれます。
整理とは、必要なものと不要なものを見極め、不要なものをあらかじめ排除しておくことで、「いざ」というときの瞬時の判断と行動を助ける準備そのものです。

● 実践例:

  • 「ヒヤリハット成功事例」の共有会
     → 急な機械トラブルでも冷静に対応できた要因を掘り下げる。「整理されていたから迷わなかった」――この気づきを言語化し、仲間と共有します。
  • ワークショップ:「無駄な作業・非効率な情報共有」を洗い出す
     → 現場でのムリ・ムダ・ムラを見つけ出し、非常時の対応を妨げる要因として認識します。

2. 整頓(Seiton):必要なものをすぐに使える状態にする

学習目標:予見能力の向上

整頓とは、単に“片付けること”ではありません。
それは「何がどこにあるのか」「なぜそこにあるのか」を自分自身で説明できる状態をつくること。つまり、現場の“設計意図”を感じ取る力=予見力を養うトレーニングでもあります。

● 実践例:

  • 「なぜここに置いてあるのか?」と問いかける習慣
     → 日常の配置や手順に対し、「この場所が最も安全で、素早く使えるから」と答えられるようになる。
  • リスク予見シミュレーション
     → 「もし停電したら?」「異物が混入したら?」といったシナリオをもとに、整頓された状態がいかにリスクを抑えるかを体験的に学びます。

3. 清掃(Seisou):きれいに保つことは、異常を見つけること

学習目標:監視能力の向上

清掃とは、ただ美しくすることではありません。
汚れの“変化”、音の“違和感”、振動の“微妙なズレ”に気づくための監視活動そのものです。日々の掃除が、「小さな異常」をいち早く発見する“感覚のトレーニング”になっていきます。

● 実践例:

  • 清掃チェックリストに“異常兆候”欄を追加
     →「異音・ひび・ホコリの量」などを記録し、設備の異常の早期発見につなげる。
  • 「異常の兆候」を学ぶ勉強会
     → ベテランの感覚を若手に伝え、汚れや異音がどんな事故につながるかを学ぶ時間を設けます。

4. 清潔(Seiketsu):習慣を保ち、学びを続ける

学習目標:学習能力の向上

清潔とは、整理・整頓・清掃の状態を維持し続ける力です。
つまり、良い習慣をやめずに続ける「学習する文化」を職場に根づかせる段階でもあります。継続=学びです。

● 実践例:

  • 改善提案制度の導入
     → 5Sを進める中で気づいた点や工夫を自由に投稿できる仕組みをつくり、チーム全体の“学習の資産”にします。
  • 「5Sから学んだこと」を毎週共有
     → うまくいったこと、失敗から学んだこと、来週に活かすアイデアなどを気軽に話し合う時間を持ち、学びを定着させていきます。

5. しつけ(Shitsuke):習慣を文化に変える

学習目標:すべての要素の統合と、レジリエンスの定着

しつけは、ルールを守る“躾”ではなく、自律的な行動が当たり前になる文化づくり
5Sのすべてを日常のふるまいとして身につけたとき、職場は自然とレジリエント(しなやかで強い)になります。

● 実践例:

  • 「安全行動の共有と表彰」制度
     → ヒヤリを未然に防いだ事例や、仲間を守る行動を称え合う仕組みを作ることで、ポジティブな行動が“当たり前”に。
  • 「なぜやるのか?」を語り合う対話の時間
     → 形式ではなく、意味を深める。「整理するのはなぜか?」「清掃は誰のためか?」そんな問いを共有することで、行動の芯が育ちます。

おわりに ― 「5Sは、レジリエンスの入り口」

5Sは、単なる整理整頓ではありません。
それは人と組織がしなやかに学び、成長するための“入り口”です。

道具を整理し、配置の意味を考え、清掃を通して異常を見抜き、良い状態を保ち続け、やがてそれが文化になる。
そのすべてが、安全・安心・信頼・品質につながっています。

 現場でも、こうした5Sを通じて「自ら学び、考え、動く人」が一人でも多く育つことを、私は心から願っています。

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