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追試がメタ認知を育てる──安全のプロほど「もう一人の自分」を持っている

ブログ

2025.12.04

現場で事故を防ぎ、確実な仕事を続けるために欠かせない力があります。
それが 「メタ認知」と呼ばれる力です。

■ メタ認知とは何か?

簡単に言うと、

もう一人の自分が、自分を冷静に監視・コントロールしている状態
です。

たとえば、

  • 認知:
     「この荷物は重いな」と感じる。
  • メタ認知:
     「重いと感じているけれど、まだ持てるか?無理はないか?」と自分を客観視する。

この「自分を見つめるセンサー」が働くからこそ、無理な判断や見落としが減ります。
安全の基本のようでいて、実は高度な心理スキルなのです。


■ なぜ「追試(再検証)」がメタ認知を育てるのか?

結論から言えば、
メタ認知は“自分の感覚を疑い、事実で確かめる”ことで強くなるからです。

心理学では、このプロセスを 較正(キャリブレーション) と呼びます。

① 「わかったつもり」を壊す

人間は、一度説明を受けただけで
「理解したつもり」
になりやすい生き物です。

これを 流暢性の錯覚(Illusion of Competence) と呼びます。

  • 1回目:
     マニュアルを読んで「理解した」と思う。
  • 追試:
     実際にやってみたら「できない」。

この“ギャップ”こそが、メタ認知を強制的に目覚めさせます。

「自分が理解したと思っても、必ずしもできるとは限らない」
──この気づきが事故を防ぎます。


② 自己評価の誤差が修正される(キャリブレーション)

メタ認知の高さは、
「主観(自己評価)」と「客観(実力)」のズレの少なさで決まります。

  • メタ認知が低い例:
     実力50点 → 「100点取れる」
  • メタ認知が高い例:
     実力50点 → 「今は50点だろう」

追試を繰り返すと、
「いけると思ったのにできなかった」
「無理だと思ったのにできた」
という修正作業が定期的に起こり、この誤差がどんどん小さくなります。


③ 「たまたま」を排除し、再現性が確認できる

一度できた作業は、運かもしれません。

  • もう一度やってみる
  • 条件を変えてやってみる

これらの繰り返しによって初めて、
「自分はこの作業を安定してできる」と判断できます。

追試に耐えた技術だけが、現場で通用する技術である

これは、科学にも安全にも共通する真理です。


■ 安全教育(現場)への応用

① ベテランは“過去の自分”で仕事をしてしまう

ベテランの事故の背景には、
「若い頃の成功体験で判断してしまう」
という問題があります。

  • 「昔は飛び降りても平気だった」
  • 「この高さなら大丈夫だろう」

しかし身体能力は年齢とともに変化しています。
にもかかわらず、“今の自分”を追試していない。

これはメタ認知が更新されていない状態です。

→ 対策:定期的な体力測定・実技テストで“今の実力”を再検証

事実を突きつける機会こそ、メタ認知のアップデートになります。


② 職長に「教える役」をやらせる理由

人に説明しようとすると、
自分の理解の甘さが浮き彫りになります。

講義をする=自分自身への追試
この作用によって、職長自身のメタ認知が急成長します。

これは「ラーニング・ピラミッド」が示す通り、
最も学習効果の高い方法です。


■ メタ認知とは「自分を疑う力」

最終的に、メタ認知を一言で表すなら、

“自分の判断を一発で信用しない力”

です。

  • メタ認知が低い人:
     「俺はわかってる。大丈夫だ」
  • メタ認知が高い人:
     「わかってるつもりだが、本当にそうか?念のためもう一度確かめよう」

これはまさに、
はまちゃんが以前から強調してきた 指差呼称KY の本質と同じです。

その場で“もう一人の自分”に再確認させる行動=追試

だから事故が減るのです。


■ まとめ

  • メタ認知とは「自分を監視・調整するもう一人の自分」である
  • 追試(再検証)が“わかったつもり”を壊し、メタ認知を鍛える
  • 繰り返しの追試で、自己評価の精度が高まる
  • ベテランほどメタ認知のアップデートが必要
  • 教えることは強力な自己追試
  • 指差呼称・KYは“その場の追試”である

追試を習慣にすることが、現場の安全レベルを底上げする最強の方法です。

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