
現場で事故を防ぎ、確実な仕事を続けるために欠かせない力があります。
それが 「メタ認知」と呼ばれる力です。
目次
■ メタ認知とは何か?
簡単に言うと、
もう一人の自分が、自分を冷静に監視・コントロールしている状態
です。
たとえば、
- 認知:
「この荷物は重いな」と感じる。 - メタ認知:
「重いと感じているけれど、まだ持てるか?無理はないか?」と自分を客観視する。
この「自分を見つめるセンサー」が働くからこそ、無理な判断や見落としが減ります。
安全の基本のようでいて、実は高度な心理スキルなのです。
■ なぜ「追試(再検証)」がメタ認知を育てるのか?
結論から言えば、
メタ認知は“自分の感覚を疑い、事実で確かめる”ことで強くなるからです。
心理学では、このプロセスを 較正(キャリブレーション) と呼びます。
① 「わかったつもり」を壊す
人間は、一度説明を受けただけで
「理解したつもり」
になりやすい生き物です。
これを 流暢性の錯覚(Illusion of Competence) と呼びます。
- 1回目:
マニュアルを読んで「理解した」と思う。 - 追試:
実際にやってみたら「できない」。
この“ギャップ”こそが、メタ認知を強制的に目覚めさせます。
「自分が理解したと思っても、必ずしもできるとは限らない」
──この気づきが事故を防ぎます。
② 自己評価の誤差が修正される(キャリブレーション)
メタ認知の高さは、
「主観(自己評価)」と「客観(実力)」のズレの少なさで決まります。
- メタ認知が低い例:
実力50点 → 「100点取れる」 - メタ認知が高い例:
実力50点 → 「今は50点だろう」
追試を繰り返すと、
「いけると思ったのにできなかった」
「無理だと思ったのにできた」
という修正作業が定期的に起こり、この誤差がどんどん小さくなります。
③ 「たまたま」を排除し、再現性が確認できる
一度できた作業は、運かもしれません。
- もう一度やってみる
- 条件を変えてやってみる
これらの繰り返しによって初めて、
「自分はこの作業を安定してできる」と判断できます。
追試に耐えた技術だけが、現場で通用する技術である
これは、科学にも安全にも共通する真理です。
■ 安全教育(現場)への応用
① ベテランは“過去の自分”で仕事をしてしまう
ベテランの事故の背景には、
「若い頃の成功体験で判断してしまう」
という問題があります。
- 「昔は飛び降りても平気だった」
- 「この高さなら大丈夫だろう」
しかし身体能力は年齢とともに変化しています。
にもかかわらず、“今の自分”を追試していない。
これはメタ認知が更新されていない状態です。
→ 対策:定期的な体力測定・実技テストで“今の実力”を再検証
事実を突きつける機会こそ、メタ認知のアップデートになります。
② 職長に「教える役」をやらせる理由
人に説明しようとすると、
自分の理解の甘さが浮き彫りになります。
講義をする=自分自身への追試
この作用によって、職長自身のメタ認知が急成長します。
これは「ラーニング・ピラミッド」が示す通り、
最も学習効果の高い方法です。
■ メタ認知とは「自分を疑う力」
最終的に、メタ認知を一言で表すなら、
“自分の判断を一発で信用しない力”
です。
- メタ認知が低い人:
「俺はわかってる。大丈夫だ」 - メタ認知が高い人:
「わかってるつもりだが、本当にそうか?念のためもう一度確かめよう」
これはまさに、
はまちゃんが以前から強調してきた 指差呼称 や KY の本質と同じです。
その場で“もう一人の自分”に再確認させる行動=追試
だから事故が減るのです。
■ まとめ
- メタ認知とは「自分を監視・調整するもう一人の自分」である
- 追試(再検証)が“わかったつもり”を壊し、メタ認知を鍛える
- 繰り返しの追試で、自己評価の精度が高まる
- ベテランほどメタ認知のアップデートが必要
- 教えることは強力な自己追試
- 指差呼称・KYは“その場の追試”である
追試を習慣にすることが、現場の安全レベルを底上げする最強の方法です。