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ユング心理学(2)

ブログ

2026.03.19

「切り離し」と脳の自動運転モード

〜なぜ人は危険を見落とすのか〜

皆さん、こんにちは。

前回の記事では、ユング心理学の基本的な考え方である
「切り離し(分離)」についてお話しました。

人は、怒り、不安、恐れ、老いなど、
「感じたくない感情」に出会ったとき、それを心の外へ追い出そうとします。

しかし、その感情は消えるわけではなく、
無意識の中に潜り込み、ある日突然「逆襲」してくることがあります。

では、この「無意識」に押し込められた感情は、
私たちの行動にどのように影響するのでしょうか。

ここで登場するのが、
人間の脳の「自動運転モード」です。


人の脳には「自動運転」がある

心理学者ダニエル・カーネマンは、人間の思考を次の二つに分けました。

システム1(自動運転)
直感的・瞬間的・無意識の判断

システム2(手動運転)
意識的・論理的・ゆっくり考える判断

私たちは普段、ほとんどの行動を
システム1(自動運転)で行っています。

例えば、

・歩く
・車を運転する
・慣れた作業をする
・工具を使う

こうした行動は、いちいち考えなくても自然にできています。

これは人間の脳がエネルギーを節約するための
非常に優れた仕組みです。

しかし、この便利な仕組みが
事故の入り口になることもあります。


切り離された感情は「自動運転」に潜り込む

前回説明した「切り離し」は、
意識から追い出された感情です。

つまりそれは、
無意識の領域に入ります。

そして無意識の領域こそ、
まさに システム1(自動運転)が働く場所なのです。

つまり何が起きるのでしょうか。

切り離された感情は、
本人が気づかない形で行動に影響します。

例えばこんなケースがあります。


例① 本当は怖い高所作業

新人作業員が高所作業を任されたとします。

本当は心の中でこう感じています。

「怖い」
「落ちたらどうしよう」

しかし、

「怖いと言ったら笑われる」
「弱いと思われたくない」

そう思い、その感情を切り離します。

するとどうなるでしょう。

表面上は

「余裕っす」

と言いながら作業をします。

しかし無意識では恐怖が残っています。

その結果、

・体が固くなる
・動きがぎこちなくなる
・注意力が下がる

こうして、
システム1の無意識の動きとしてミスが起こります。


例② ベテランの「まだ大丈夫」

50代後半のベテラン作業員。

最近、少し視力が落ちてきました。

しかし本人はこう思います。

「まだ若いもんには負けん」

本当は感じている

・見えにくさ
・反応の遅れ
・体力の低下

これらを認めたくないため、
心の中で切り離します。

すると、

・確認を省く
・指差呼称をしない
・経験だけで判断する

こうした行動が増えていきます。

本人は「自信」だと思っていますが、
実際には

無意識が作る自動判断

に頼っている状態なのです。


危険なのは「自覚がないこと」

ここが重要なポイントです。

システム1は
自覚がほとんどありません。

つまり、

本人は

「自分は冷静だ」
「ちゃんとやっている」

と思っています。

しかし実際には、

・恐れ
・怒り
・焦り
・プライド

こうした切り離された感情が、
無意識の判断に影響していることがあります。

これが

ヒューマンエラーの深い原因

になるのです。


安全の第一歩は「気づくこと」

ではどうすればよいのでしょうか。

答えは、意外とシンプルです。

それは、

自分の状態に気づくこと

です。

例えば、

「今日は少し焦っているな」

「この作業、実は怖い」

「最近、目が疲れやすい」

こうした感覚を、
無理に消さずに認めることです。

それだけで、
自動運転だった脳が一度止まり、

システム2(考えるモード)

が働き始めます。

すると人は、

・確認する
・相談する
・作業を止める

といった安全な行動を取れるようになります。


次回予告

次回は、

「切り離し」とバイアス(思い込み)

の関係についてお話します。

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