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ユング心理学(3)

ブログ

2026.03.23

「切り離し」と正常性バイアス

〜なぜ人は「まあ大丈夫」と思ってしまうのか〜

皆さん、こんにちは。

前回の記事では、人間の脳には
「自動運転モード(システム1)」
があるという話をしました。

私たちは普段、ほとんどの行動を無意識の判断で行っています。

そして前回説明したように、
心の中で「切り離された感情」は、この無意識の領域に入り込み、知らないうちに私たちの行動に影響を与えます。

今回は、その無意識の判断が生み出す代表的な現象、
「正常性バイアス」についてお話しします。


正常性バイアスとは何か

正常性バイアスとは、

「自分にとって都合の悪い情報を、過小評価してしまう心の働き」

のことです。

簡単に言えば、

「まあ大丈夫だろう」

と思ってしまう心理です。

例えば、

・「今まで事故は起きていない」
・「まだ大きな問題ではない」
・「自分だけは大丈夫」

こうした考え方です。

この心理は、人間が強い不安や恐怖に直面したとき、
心を守るために働く自然な仕組みでもあります。

もし人が常に危険を100%リアルに感じていたら、
恐怖で何もできなくなってしまうからです。

しかし、この心理が強く働きすぎると、
危険を見逃す原因になります。


正常性バイアスの正体は「切り離し」

では、なぜ人は「まあ大丈夫」と思ってしまうのでしょうか。

ここで前回のテーマである
「切り離し」が関係してきます。

例えば現場で、次のような状況を想像してみてください。

高所作業をしているとき、
足場が少し揺れました。

その瞬間、人の心には

「危ないかもしれない」

という不安が生まれます。

しかし同時に、こんな思いも出てきます。

「大げさに言うと恥ずかしい」
「仕事が止まると迷惑をかける」
「ベテランなのに怖いと言えない」

すると人はどうするでしょうか。

心の中で起きた不安を、
「気のせいだろう」
と処理してしまいます。

つまり、

不安という感情を切り離してしまう

のです。

そしてその結果、

「まあ大丈夫だろう」

という判断が生まれます。

これが
正常性バイアスの心理構造です。


ベテランほど起こりやすい理由

この正常性バイアスは、
実はベテランほど起こりやすいことがあります。

理由はとてもシンプルです。

経験が多いほど、
次のような考えが生まれやすいからです。

「今まで事故はなかった」
「このくらいは問題ない」
「長年やっているから分かる」

もちろん経験は大きな力です。

しかしその経験が、

「危険のサイン」を見えにくくする

こともあります。

例えば、

・足元のわずかな段差
・体の反応の遅れ
・視界の違和感

こうした小さなサインを、

「まだ大丈夫」

と処理してしまうのです。

これは決して怠けているわけではありません。

むしろ

真面目で責任感の強い人ほど

正常性バイアスに入りやすいと言われています。


正常性バイアスが事故を生む瞬間

多くの事故の直前には、
必ずと言っていいほど

「小さな違和感」

が存在しています。

・いつもと違う音
・少しの揺れ
・体の違和感
・作業手順の迷い

しかしその瞬間、人はこう思います。

「大したことはない」

この一瞬の判断が、
事故へとつながることがあります。

つまり事故は、

大きなミスではなく、

小さな違和感を無視した瞬間

から始まるのです。


安全のカギは「違和感を言える空気」

正常性バイアスを完全に無くすことはできません。

なぜなら、それは
人間の自然な心理だからです。

しかし、事故を防ぐ方法はあります。

それは、

違和感を言葉にできる環境

を作ることです。

例えば、

「ちょっと待ってください」

「今の作業、少し気になります」

「確認してもいいですか」

こうした一言が言える現場では、
正常性バイアスは大きく働きません。

なぜなら、

個人の思い込みを、チームが修正できる

からです。


次回予告

ここまで、

・切り離し
・自動運転(システム1)
・正常性バイアス

の関係について説明してきました。

次回は、

「職場の空気」と無意識

というテーマで、

ユング心理学のもう一つの重要な考え方

集合的無意識

について解説します。

実は、

「この現場では言いにくい」
「ここでは何でも言える」

という空気も、
心理学的に説明することができます。

安全で働きやすい職場を作るヒントを、
一緒に考えていきましょう。

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