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幼稚園バス閉じ込め事故がなくならない理由

ブログ

2025.10.10

―「考え続ける仕組み」が人の命を守る―

 またしても、幼稚園バスの車内に子どもが取り残される事故が起きました。
これまでに何度も報道され、そのたびに社会は「再発防止」を誓ってきたはずです。
それでも、同じ悲劇が繰り返されるのはなぜでしょうか。

■ 「人は怠ける」―それを前提に考える

人間は、どれほど責任ある立場でも、常に注意深く動けるわけではありません。
心理学的に言えば、人は「認知的経済性」と呼ばれる傾向を持ち、
少しでも楽な方法を選ぼうとする“省エネ思考”の生き物です。

毎日同じ確認作業を繰り返し、何も起きない日が続くと、
「今日も大丈夫だろう」という正常性バイアスが働きます。
そこに「遠隔スイッチ」などの便利な仕組みがあれば、
“わざわざ行かなくても済む”という甘い誘惑に負けてしまう。

つまり、人は「怠ける」のではなく、怠けてしまうように設計されているのです。

■ 「考える」ことを止めない仕組みが必要

確認作業は単なる作業ではなく、「命を守る行為」です。
だからこそ、形だけで終わらせず、なぜそれを行うのか
日々思い出せる環境づくりが大切です。

たとえば、運転席や点呼場所に、過去の痛ましい事故の新聞記事を貼っておく。
出発前に必ず目に入り、心に刺さる。
「今日も絶対に確認する」――その小さな誓いが習慣になります。

「考え続ける」ことこそが、人間の安全行動の源です。

■ 遠隔装置は“仕舞う”ではなく“廃棄”する

便利な仕組みほど、人の判断力を奪うことがあります。
特に、遠隔スイッチのように「使える状態で存在する」限り、
人は無意識にそれを“保険”として残し、いつか使ってしまう。

ですから、仕舞うだけでは不十分です。廃棄することが必要です。
使えない環境を作る――それは人を責めるのではなく、
“人が怠けないで済む環境”を作るということ。

これは、安全設計の基本である「フールプルーフ(誤使用防止)」の考え方です。
「注意して使う」のではなく、「使えないようにする」。
その構造的な防止策こそが、確実に命を守ります。

■ 「考える人」と「考え続けられる環境」

閉じ込め事故を防ぐのは、技術でも規則でもありません。
人が“考え続ける”ことです。

毎朝、なぜ確認するのかを思い出す。
面倒でも、後部まで歩く。
その行為の中に、「子どもの命を預かる」という誇りが宿ります。

そして組織は、その行為を評価し、支える文化を作らねばなりません。
「今日もありがとう」「確認してくれて助かる」
その一言が、次の確認を生むエネルギーになります。

■ おわりに

人間は完璧ではありません。
だからこそ、考える習慣怠けられない環境を組み合わせることが、
再発防止の最も現実的な方法だと私は思います。

遠隔スイッチを廃棄し、
事故の記録を日々目にし、
「今日も必ず確認する」と自分に誓う。

それだけで、救える命があります。

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