
第2回 できる所長は「次」を見ている
― 目の前ではなく、現場全体を考える力 ―
前回、「非常時の判断力は、平常時につくられる」という話をしました。
日常の中で、
「なぜ?」
「この次は?」
「もし状況が変わったら?」
と考えることが、想定外に対応するためのレジリエンスにつながっていきます。
振り返ってみると、私は現役時代、建設現場の所長として、この「次を考える」ということを毎日のように繰り返していました。
所長の仕事とは、目の前で行われている作業を見るだけではありません。
今日を見ると同時に、明日を見る。
一つの作業を見ると同時に、現場全体を見る。
それが現場所長の仕事だったと思います。
大きな現場では、すべてが同時に動いている
私が担当した大きな現場では、100人を超える作業員が働いていました。
大型重機が動き、溶接機器などさまざまな設備が使われ、それぞれ違う専門技能を持った作業員が、それぞれの仕事をしています。
当然、所長一人ですべての作業を見ることなどできません。
だからこそ必要になるのが、現場全体を見ることです。
今日はどこで何の作業をしているのか。
次にどの業者が入ってくるのか。
そのためには何を準備しておかなければならないのか。
重機が移動すれば、人の動線はどう変わるのか。
一つの工程が遅れれば、次の工程にどのような影響が出るのか。
所長の頭の中では、常にいくつものことが同時に動いています。
大切なのは、起きていることを見るだけではありません。
「この次に何が起きるのか」を考えることです。
問題が起きてから動くのでは遅い
現場では毎日のように状況が変化します。
計画通りに進まないこともあります。
天候が変わる。
資材の搬入が遅れる。
重機の配置が変わる。
別の作業が予定より早く終わる。
作業員の人数が変わる。
こうした変化のたびに、
「予定と違う。どうしよう」
と考えていたのでは、現場はうまく回りません。
そこで必要になるのが先読みです。
「もし、この作業が遅れたらどうするか」
「雨が降ったら、どの作業へ切り替えるか」
「予定していた場所が使えなくなったら、どこを使うか」
一つの方法だけではなく、別の方法も考えておく。
Aが駄目ならB。Bも駄目ならC。
このように選択肢を持っておけば、状況が変わっても対応できます。
これこそ、前回取り上げたレジリエンスにつながる考え方です。
「全部知っている」と「全部自分でする」は違う
私は所長時代、現場全体の状況をできるだけ把握するようにしていました。
しかし、これは所長がすべて自分でやるという意味ではありません。
100人以上が働く現場で、そんなことは不可能です。
それぞれの仕事には、それぞれの専門家がいます。
所長に必要なのは、その人たちより上手に作業することではありません。
誰が、どこで、何をしているのか。
次に何が必要になるのか。
何と何が影響し合うのか。
それを把握しておくことです。
私は、これが「現場を見る」ということだと思っています。
一つひとつの作業だけを見るのではなく、少し離れたところから現場全体を見る。
言い換えれば、俯瞰して見る力です。
所長の頭の中には、少し先の現場がある
優れた職長は、自分たちの作業の少し先を考えています。
では、所長はどうでしょう。
所長は、さらにその先を考えなければなりません。
今日だけではなく明日。
今週だけではなく来週。
一つの作業だけではなく、その作業が終わった後に始まる別の作業。
私は、所長の頭の中には、実際の現場より少し先の現場が存在していなければならないと思っています。
実際にはまだ何も起きていない。
しかし頭の中では、
「こうなれば、こうなる」
「ここが変われば、こちらにも影響する」
「だったら今のうちに準備しておこう」
と現場を動かしている。
これは未来を当てることではありません。
未来を予測して、今できることを考えることです。
「気づく力」だけでは足りない
安全管理では、「危険に気づく力」が大切だと言われます。
もちろん大切です。
しかし、私はそれだけでは足りないと思っています。
気づいた後に、
「このまま進めば、どうなるのか」
まで考える必要があります。
さらに、
「では、今何をしておけばよいのか」
まで考える。
気づく。
予測する。
準備する。
状況が変われば対応する。
そして、その結果から学ぶ。
こう考えると、現場所長が日常的に行っている仕事そのものが、レジリエンスと深く関係していることが分かります。
所長の仕事は「問題を解決すること」だけではない
トラブルが発生した時、素早く問題を解決できる所長は頼りになります。
しかし、本当に優れた所長とは、それだけでしょうか。
私は違うと思います。
問題が起きないように、何も起きていない時から考えている所長。
そして、たとえ想定外のことが起きても、いくつかの選択肢を持っている所長。
そういう所長の方が、現場は安定します。
問題を解決する能力も大切です。
しかし、それ以上に、
「次に何が起こるか」を考え、先に準備する力。
これが現場を預かる人間には必要なのだと思います。
そして、そのためには目の前の作業だけを見ていてはいけません。
一歩離れて現場全体を見る。
人を見る。
工程を見る。
設備を見る。
そして、その先を見る。
第1回で、
「非常時の判断力は、平常時につくられる」
と書きました。
現場所長の仕事も同じです。
優秀な所長は、何かが起きてから動くのではない。
何も起きていない時から「次」を考えている。
では、次を考えた所長は、何をするのでしょうか。
私は、その答えの一つが「環境を整えること」だと思っています。
次回は、
「元請の仕事は、協力会社が仕事をしやすい環境をつくること」
について、私自身の現場所長時代の経験から考えてみます。