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『自分が正しいと』思った時こそ危ない

バイアス

2026.10.01

SNSの批判から考える 正義感と認知バイアス

SNSを見ていると、他人の行動を厳しく批判する投稿をよく目にします。もちろん、本当に問題のある行動もありますし、間違った行動を「間違っている」と指摘すること自体が悪いわけではありません。

しかし、ときどき気になることがあります。

「その行動は間違っている」という批判が、いつの間にか「そんなことをする人間は許せない」という人物への攻撃に変わっていないでしょうか。

ここには、人間の持つ「正義感」と認知バイアスが関係しているように思います。

「正しい」という判断から始まる

たとえば、SNSに危険な運転をしている車の動画が投稿されたとします。それを見て「これは危険な運転だ」「交通ルールを守るべきだ」と考える。ここまでは、行動に対する評価です。

ところが、「こんな運転をする人間は非常識だ」「普段からろくな運転をしていないのだろう」「こんな人は徹底的に批判されて当然だ」となってくると、話が少し変わってきます。

問題となる行動を批判することと、その人そのものを否定することは同じではありません。

この境界線を越えるところに、いくつかの認知バイアスが入り込んできます。

「やっぱりこの人は悪い」と考えてしまう

その一つが確証バイアスです。

人は一度「この人は悪い」「この人の考えは間違っている」と判断すると、その考えを裏付ける情報に目が向きやすくなります。反対に、自分の判断と合わない情報には目が向きにくくなります。

最初は一つの行動を批判していただけだったはずなのに、いつの間にか、その人の過去の発言や別の行動まで探し始める。そして、

「ほら、やっぱりこういう人だった」

と、自分の最初の判断をさらに強めていきます。

これは確証バイアスの典型的な働きです。認知心理学では、自分の考えに一致する情報を重視し、反対の情報を軽視することで、最初の判断が強化されていくことが知られています。

行動ではなく「人」を評価してしまう

もう一つ注意したいのが、相手の行動をその人の性格と結びつけてしまうことです。

誰かが失礼な行動をしたとき、「何か事情があったのではないか」と考えるより、「この人は非常識な人だ」と考えてしまうことがあります。心理学では、このように相手の置かれた状況より、その人の性格や人間性を原因として考えやすい傾向を基本的帰属の誤りと呼びます。

SNSでは相手の生活も、そのときの状況も、ほとんど分かりません。私たちが見ているのは、切り取られた一場面にすぎないこともあります。

それでも、その一場面から相手の人間性まで判断してしまう。

「悪い行動をした」から「悪い人である」へ。

この飛躍には注意が必要です。

SNSでは「正義」がさらに強くなる

さらにSNSには、もう一つ特徴があります。

誰かを批判すると、「その通り」「許せない」「もっと言ってやれ」と、自分と同じ意見の人から反応が返ってくることがあります。

すると、自分の判断が正しかったという感覚が強くなります。そこに同調などの心理が加われば、批判はさらに強くなる可能性があります。

「この行動は間違っている」
→「この人は間違った人間だ」
→「この人を批判する自分は正しい」
→「もっと強く批判してもよい」

このように変化してしまえば、最初に問題としていた行動から離れ、「相手を攻撃すること」そのものが目的になりかねません。

正義感そのものが悪いわけではない

ここで間違えてはいけないのは、正義感そのものが悪いわけではないということです。

危険な行動を見て「危ない」と感じる。ルール違反を見て「それはおかしい」と思う。不公平なことに対して「それは違う」と声を上げる。

社会生活には必要な感覚です。

問題は、「自分は正しい」と確信した瞬間から、自分自身の判断を疑わなくなることです。

自分が正しいと思えば思うほど、相手の事情を考えなくなる。自分と違う意見を聞かなくなる。そして、自分の行動については「正しいことをしているのだから」と考えるようになる。

ここに認知バイアスの怖さがあります。

「自分は正しい」と思ったときこそStop-Look-Think

私は安全教育の中で、Stop-Look-Thinkという考え方を勧めています。

これはSNSでも使えると思います。

Stop――すぐに反応しない。
Look――事実と状況を見る。
Think――自分の判断も含めて、もう一度考える。

「これは許せない」と思ったときこそ、一度止まってみる。

「私は事実を批判しているのか、それとも人を攻撃しようとしているのか」

「相手の事情を知らないまま判断していないか」

「自分と同じ意見だけを見ていないか」

こうして自分自身の考え方を一段上から眺めることがメタ認知です。

安全管理でも同じことが起きる

この話はSNSだけの問題ではありません。職場の安全管理でも、よく似たことが起こります。

作業員がルールを守っていなかった。それを見た管理者が、

「ルール違反だ。本人の意識が低い」

と考える。

確かに、守るべきルールは守らなければなりません。不安全行動に対して厳しく指導することも必要です。

しかし、そこで思考を止めてしまえば、**「なぜ、その行動が起きたのか」**が見えなくなります。

手順が分かりにくかったのか。作業時間に無理があったのか。道具が使いにくい場所に置かれていたのか。周囲の作業員も同じことをしていたのか。教育が十分ではなかったのか。

本人の問題だけではなく、行動を生み出した環境を見る必要があります。

これはSafetyⅡにもつながる考え方です。

正義感が強くなったときほど、自分を疑ってみる

私たちは誰でも認知バイアスを持っています。心理学を学んでいるからバイアスにかからない、ということでもありません。

だからこそ大切なのは、

「自分は正しい」と強く思ったときほど、自分の判断をもう一度確認すること。

これはSNSでも、職場でも、家庭でも同じです。

他人の行動を批判する前に、一度止まる。

そして、「本当に見えているものだけで判断してよいのだろうか」と考えてみる。

正義感をなくす必要はありません。

必要なのは、自分の正義感さえも客観的に見るメタ認知です。

そのための小さな習慣として、私はやはりStop-Look-Thinkを大切にしたいと思います。

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