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安全の心理学4―考え続けると疲れる System2―

ブログ

2026.10.08

これまで、System1は「いつもの自動運転」、System2は「ちょっと待てよ、と考える働き」と説明してきました。

安全だけを考えれば、「それなら、いつもSystem2を使って慎重に考えればよいのではないか」と思うかもしれません。しかし、人間は一日中じっくり考え続けることはできません。System2には、大きな弱点があるからです。

System2は頭を使う

難しい計算問題を解いた後や、初めての仕事を長時間続けた後に、どっと疲れた経験はないでしょうか。身体を激しく動かしていなくても、考え続けるだけで疲れます。

System2は、情報を確認し、比較し、判断する働きです。そのためSystem1のように自動的に処理する場合に比べて、脳に大きな負担がかかります。

例えば、新人が初めて機械を操作するときは、操作手順を確認しながら、一つひとつ慎重に作業します。ところが何時間も同じように集中していると、だんだん疲れてきます。そして疲れてくると、人間は自然に楽な方へ戻ろうとします。

つまり、System2からSystem1へ戻りやすくなるのです。

「集中し続けなさい」は難しい

安全教育では、「集中して作業してください」「注意力を切らさないようにしてください」と言われることがあります。

もちろん、注意することは大切です。しかし、人間の注意力には限界があります。何時間も同じ強さで集中し続けることはできません。

特に単調な作業では、最初は慎重に確認していても、繰り返すうちに行動が自動化されていきます。「さっきも大丈夫だった」「今回も同じだろう」と考えるようになり、確認そのものが形だけになっていくこともあります。

これは、その人が怠けているからとは限りません。人間の脳が効率よく働こうとする自然な仕組みでもあります。

同時にいくつものことを考えるのも苦手

System2には、もう一つ特徴があります。それは、一度にたくさんのことを考えるのが苦手だということです。

例えば、作業中に上司から別の指示を受け、無線が入り、周囲の作業にも注意しながら、次の工程まで考える。このような状況になると、頭の中は一気に忙しくなります。

すると、「さっき何を確認しようとしていたのか」「どこまで作業したのか」が分からなくなることがあります。

現場でよくある、

「声を掛けられた後に確認を忘れた」

「別の作業を頼まれて、元の作業が途中だったことを忘れた」

というエラーにも、このような脳の限界が関係しています。

人間は機械のように、何種類もの情報を同じ精度で同時処理することはできません。

疲れると、いつものやり方に戻りやすい

忙しいとき、時間に追われているとき、疲れているときほど、私たちは細かく考えなくなります。

「いつものやり方でいいだろう」

「これくらいなら大丈夫だろう」

「早く終わらせよう」

と判断しやすくなります。

このとき、System1が前面に出てきます。

System1そのものが悪いわけではありません。しかし、普段とは違う状況なのに「いつものやり方」を続ければ、危険を見落とす可能性があります。

特に、疲労、焦り、時間不足、人手不足などが重なると、System2を働かせる余裕そのものが少なくなってきます。

だから安全管理では、「もっと集中しろ」という精神論だけでなく、人間が集中し続けられないことを前提にした仕組みが必要になります。

チェックリストは脳を助ける道具

例えば、チェックリストがあります。

「そんなことは覚えているから必要ない」と思う人もいるかもしれません。しかしチェックリストは、覚えているかどうかを試すためのものではありません。

人間の記憶や注意には限界があるため、その負担を外に出すための道具です。

確認項目が紙に書かれていれば、

「何を確認するのだったか」

と頭の中だけで覚えておく必要がありません。

作業手順書やチェックシート、KY用紙なども同じです。人間の頭の能力には限界があるからこそ、道具や仕組みで補います。

安全管理は、「人間をもっと注意深くすること」だけではありません。

人間は忘れる。疲れる。注意がそれる。だから仕組みで支える。

この考え方が重要です。

休憩にも意味がある

休憩も、安全にとって大切な仕組みの一つです。

身体を休めるだけではありません。頭を使い続けた状態から一度離れ、注意力を回復させる意味があります。

忙しい現場では、

「もう少しだから終わらせよう」

と休憩を後回しにすることがあります。

しかし疲れている状態では、確認不足や判断ミスが起こりやすくなります。

少し立ち止まることで、もう一度周囲を見る余裕が生まれることがあります。

休憩もまた、System1だけで作業を続けないための安全対策と考えることができます。

安全は「頑張って考える」だけでは守れない

安全というと、

「しっかり考えよう」

「注意しよう」

「集中しよう」

という言葉がよく使われます。

しかし、人間には能力の限界があります。

System2を一日中働かせることはできませんし、注意力を常に100%に保つこともできません。

だからこそ安全管理では、人間の弱点を責めるのではなく、それを補う仕組みを作ることが重要になります。

指差呼称、KY、チェックリスト、作業手順、休憩、声かけなどは、人間の頭だけに頼らないための工夫です。

今日覚えてほしいこと

System2は、一度立ち止まって考えるための大切な働きです。しかし、System2は頭を使うため、長時間使い続けることはできません。

人間は疲れると、自然にSystem1の「いつものやり方」に戻ります。

だから、

「いつも注意しなさい」だけでは安全は守れません。

忘れること、疲れること、注意がそれることを前提にして、それを補う仕組みを作る必要があります。

System1にも良いところがあります。System2にも限界があります。

大切なのは、どちらか一方を使うことではなく、二つの働きをうまく使い分けることです。

明日の金曜日は、この1週間のまとめとして、

「System1とSystem2を安全にどう使い分けるか」

について考えてみたいと思います。

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