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安全の心理学5 ―System1とSystem2の使い分け―

ブログ

2026.10.09

月曜日から、System1とSystem2について考えてきました。

System1は、経験や慣れをもとに素早く動く「いつもの自動運転」です。System2は、一度立ち止まり、「本当にこれでよいのか」と考える働きです。

ここまで読むと、「安全のためにはSystem2をたくさん使えばよい」と思うかもしれません。しかし、昨日お話ししたように、System2は頭を使います。長時間使い続ければ疲れますし、一度にたくさんのことを考えるのも得意ではありません。

一方のSystem1は、素早く効率よく行動するために欠かせません。

では、安全のためには、この二つをどう使えばよいのでしょうか。

System1でできることはSystem1に任せる

毎日行っている作業を、毎回最初から考え直していたら仕事は進みません。

慣れた工具を使う。決められた通路を歩く。日常的な操作を行う。このような場面では、経験によって身についたSystem1が大きな力になります。

熟練者が効率よく仕事を進められるのも、経験した多くのことがSystem1として身についているからです。

したがって、System1をなくす必要はありません。

むしろ、

安全に身についた行動をSystem1にしていく

ことが大切だと考えられます。

例えば、作業開始前に必ず周囲を見る。機械を動かす前に必ず確認する。高所では自然に墜落制止用器具を確認する。

こうした安全行動が習慣になれば、毎回「やらなければ」と考えなくても自然に実行できるようになります。

安全行動そのものを、System1にしてしまうのです。

いつもと違ったらSystem2の出番

System1に任せてよいのは、いつもの条件が続いているときです。

ところが、現場では毎日何かが変わります。

昨日と違う作業員がいる。材料の置き場所が変わった。雨が降っている。足場が変更された。工程が遅れている。別の業者が近くで作業している。

このような変化があれば、

「いつもと同じだから大丈夫」

とは限りません。

そこで必要になるのがSystem2です。

「昨日と何が違うのか」

「この違いによって、新しい危険は生まれていないか」

「いつものやり方を続けてよいのか」

と考える。

つまり、

変化がSystem2を使う合図

になります。

危険を感じたときもSystem2を使う

もう一つの合図が「違和感」です。

「何となく変だな」

「いつもと音が違う」

「この作業、少しやりにくいな」

「何となく危ない感じがする」

こうした感覚を、すぐに「気のせい」で終わらせないことが大切です。

違和感そのものは、経験に基づくSystem1から出ていることがあります。

そのとき、

「なぜそう感じたのだろう」

と考える。

ここでSystem2を使います。

System1が違和感を知らせ、System2がその理由を確認する。

この連携ができれば、安全の力は大きくなります。

KYも、二つの思考をつなぐ時間

作業前のKYを考えてみます。

毎日同じ作業をしていれば、

「昨日もやったから危険は分かっている」

と思ってしまうことがあります。

しかし、本来のKYは、昨日の危険を思い出すだけではありません。

今日の作業は昨日と何が違うのか。

これを考える時間です。

天候、人員、工程、周囲の作業、使用する機械などを確認し、「今日だから生まれる危険」を考える。

普段のSystem1から一度離れ、System2で現場を見直す時間と考えると、KYの意味も少し違って見えてきます。

指差呼称も切り替えのスイッチ

指差呼称も同じです。

慣れた作業では、目の前にあるものを「見たつもり」になってしまうことがあります。

そこで、対象をしっかり見る。指を差す。声に出して確認する。

「○○、ヨシ!」

この一連の動作を入れることで、自動的に流れていた行動に区切りをつけることができます。

つまり指差呼称は、

System1からSystem2へ一瞬切り替えるスイッチ

として考えることもできます。

Stop-Look-Thinkも同じ考え方

私がよく紹介しているStop-Look-Thinkも、考え方は同じです。

Stop――一度止まる。

Look――周囲を見る。

Think――考える。

「何かおかしい」と思ったとき、そのまま進まない。

一度立ち止まることで、System1の流れを切ります。

そして、周囲を改めて見て、考える。

安全のために必要なのは、「いつもゆっくり考えること」ではありません。

必要なときに、考えるモードへ切り替えられること

なのです。

ベテランほどSystem2が必要な場面もある

新人は、分からないことが多いため、自然にSystem2を使います。

一方、ベテランは多くのことがSystem1でできるようになります。

これは大きな強みです。

しかし同時に、

「いつもの作業だから」

「今まで問題なかったから」

という判断もしやすくなります。

だからこそベテランには、

「今日はいつもと何が違うか」

と意識して考えることが必要になります。

経験があるから確認しなくてよいのではありません。

経験があるからこそ、変化にも気づけます。

その気づきをSystem2につなげることが、熟練者の安全行動だと思います。

安全の基本は「切り替えること」

ここまで5日間、System1とSystem2について考えてきました。

System1は悪者ではありません。

System2がいつも正しいわけでもありません。

大切なのは、それぞれの特徴を知り、必要に応じて使い分けることです。

普段の慣れた作業はSystem1で効率よく行う。

しかし、

いつもと違う。

何か変だ。

初めての作業だ。

判断に迷う。

危険を感じる。

そんなときには、

一度立ち止まり、System2を使う。

この切り替えが、安全行動の大きなポイントになります。

今日覚えてほしいこと

人間は、いつもじっくり考えて行動しているわけではありません。

System1があるから、私たちは効率よく生活し、仕事をすることができます。

そして、必要な場面ではSystem2を使って、立ち止まり、確認し、考え直すことができます。

安全で大切なのは、

System1をなくすことでも、System2を常に使うことでもありません。

「今はどちらを使うべきか」に気づくことです。

指差呼称、KY、チェックリスト、Stop-Look-Think。これらはすべて、人間の思考の特徴を上手に利用するための安全の仕組みと考えることができます。

人間の脳の仕組みを知れば、「もっと注意しろ」だけではない安全対策が見えてきます。

これが、心理学から安全を考える面白さだと思います。

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