
―確証バイアス―
■ 自分の考えに合う情報ばかり見ていませんか
皆さんは、何かを判断するとき、自分の考えが正しいことを確認しようとした経験はありませんか。
例えば、新しい電化製品を購入するときのことです。
いろいろ調べているうちに、「この製品が一番よい」と考えるようになりました。
すると、その製品を高く評価している口コミには目が向くのに、欠点を指摘している口コミはあまり気にならなくなることがあります。
「この人は使い方が悪かったのだろう」
「たまたま不良品に当たっただけではないか」
このように、自分の考えに合わない情報を軽く扱ってしまうのです。
実は、こうした心理は誰にでも生じます。
これを心理学では、確証バイアスと呼びます。
■ 確証バイアスとは何か
確証バイアスとは、自分がすでに持っている考えや判断を裏づける情報を重視し、それに反する情報を軽視しやすくなる心理的な傾向です。
人間は、物事を判断するとき、すべての情報を同じように扱っているわけではありません。
自分が正しいと思っていることを支持する情報は、自然と目に入りやすくなります。
反対に、自分の考えと異なる情報については、「これは例外だろう」「あまり重要ではない」と受け止めてしまうことがあります。
ここで問題になるのは、本人は公平に判断しているつもりでも、実際には情報の受け取り方が偏っている可能性があるということです。
確証バイアスも、特別な人だけに生じるものではありません。
経験豊富な人にも、専門的な知識を持っている人にも起こり得ます。
■ 安全だと思い込むと、危険が見えなくなる
建設現場で、作業前に足場を確認する場面を考えてみましょう。
その足場は、昨日まで問題なく使用されていました。
作業員は、「この足場は安全だ」と考えています。
そこで点検すると、手すりは設置され、作業床も整っています。
「やはり問題はない」
ところが、よく見ると、床材の一部に固定が不十分と思われる箇所があります。
しかし、「昨日も使っていたから大丈夫だろう」と考え、その異常を十分に確認しないまま作業を始めてしまうかもしれません。
この場合、最初から「安全である」という結論が頭にあるため、その結論を支持する情報ばかりに目が向いている可能性があります。
もちろん、実際の見落としには、注意不足や確認手順の問題など、さまざまな要因があります。すべてが確証バイアスによるものではありません。
しかし、安全だという思い込みが、危険を示す情報の見落としにつながる可能性があることは、覚えておきたいところです。
■ 正常性バイアスとの違い
昨日は正常性バイアスについて説明しました。
この二つは似ているようですが、注目する心理の働きが少し違います。
正常性バイアスは、異常が起きていても「大したことはない」「いつもと変わらない」と受け止めてしまう傾向です。
一方、確証バイアスは、自分が正しいと思っている考えを支持する情報を重視し、反対の情報を軽視してしまう傾向です。
例えば、機械からいつもと違う音が聞こえてきたとします。
「この程度の音なら問題ないだろう」と異常を小さく考えるのは、正常性バイアスに関係する可能性があります。
そして、「以前も同じような音がしたが故障しなかった」という経験ばかりを思い出し、異常を示す情報を軽視するのは、確証バイアスに関係する可能性があります。
実際の判断では、複数のバイアスが重なって働くこともあります。
■ システム1とシステム2の働き
先週まで学んだシステム1とシステム2の考え方にもつながります。
私たちは、これまでの経験を利用して、素早く物事を判断しています。
この働きは、普段の生活や仕事に欠かせません。
しかし、一度「これで大丈夫」と判断すると、その後の情報も、その判断に合わせて解釈してしまうことがあります。
では、システム2を使って、じっくり考えれば大丈夫なのでしょうか。
実は、それだけでは十分ではありません。
人間は、じっくり考えているつもりでも、自分の考えを正当化するために理由を探してしまうことがあります。
つまり、考える時間を長くするだけで、必ずしも確証バイアスから逃れられるわけではないのです。
大切なのは、考える方向です。
「自分の判断は正しい」という証拠を探すだけでなく、「自分の判断が間違っているとしたら、どこに問題があるだろうか」と考える必要があります。
■ 自分の判断を疑う習慣を持つ
月曜日には、ミュラー・リヤー錯視を紹介しました。
同じ長さだと知っていても、違って見えてしまう現象です。
確証バイアスも、知識を持っただけでなくなるものではありません。
しかし、その存在を知っていれば、自分の判断を見直すきっかけをつくることができます。
例えば、作業前の確認で「問題なし」と判断したときです。
そこで、もう一度考えてみます。
「私は、安全なところばかり見ていないだろうか」
「危険を示す情報を見落としていないだろうか」
「ほかの人が確認したら、違う結果になるのではないか」
このように、自分自身の判断を客観的に見直すことが大切です。
これが、以前から紹介しているメタ認知につながります。
■ Stop-Look-Thinkを安全確認に生かす
私が勧めているStop-Look-Thinkも、確証バイアスへの対策に活用できます。
- Stop(止まる)――「安全だ」という思い込みで判断を終わらせない。
- Look(見る)――安全を示す情報だけでなく、危険を示す情報も探す。
- Think(考える)――自分の判断が間違っている可能性も考える。
また、現場の安全管理では、自分一人の判断だけに頼らないことも重要です。
作業員同士で確認する。職長に相談する。チェックリストを利用する。
そして、誰かが「ここは危険ではありませんか」と指摘したときには、その意見を軽く扱わず、事実を確認することです。
そのためには、経験年数や立場に関係なく、疑問を口にできる職場環境が必要になります。
■ 「間違っているかもしれない」が安全を守る
私たちは、誰でも自分の考えが正しいと思いたいものです。
しかし、安全管理では、自分の判断を信じるだけでは十分ではありません。
長年の経験がある人ほど、過去の成功体験から強い確信を持つこともあります。
経験は大切です。しかし、経験があるからといって、判断を間違えないわけではありません。
「自分は正しい」と考えるだけでなく、「自分も間違っているかもしれない」と考える。
この姿勢が、確証バイアスの影響を小さくする第一歩になります。
バイアスを完全になくすことはできません。
だからこそ、まずはその存在を知り、自分の判断を見直す習慣を身につけることが大切なのです。
明日は、「自分だけは事故に遭わない」と考えてしまう楽観バイアスについて考えます。