

大規模物流センター建設工事に見る高所作業のリスクアセスメント不足
またまた、最寄り駅までの道すがら、大規模物流センター建設工事の現場を観察する機会があった。今回目についたのは、建物の外周に設置された歩廊(バルコニー状の構造物)。しかし、設置の際に吊り上げる都合からか、手すりも床材も取り付けられていない。これは、橋梁工事を経験した私からすれば、リスクアセスメントが適切に行われていない現場の典型例と言わざるを得ない。
高所作業における最大のハザードは「高さ」
建設現場におけるリスクアセスメントの基本は、危険源(ハザード)の特定と、それを回避・低減することにある。高所作業の最大のハザードは「高さ」そのものであり、理想は「高所作業を減らす、または無くす」ことだ。
今回のような歩廊の場合、施工段階でのリスクアセスメントが不十分であったため、高所作業のリスクがそのまま残されてしまった。その結果、多くの作業が高所で行われることになり、墜落・転落の危険性が高まっている。
設計・施工段階でのリスク低減策
本来、このような歩廊の設置に際しては、以下のような方法で高所作業を減らすべきである。
1. 地上で手すり・床材を組み立てた状態で吊り上げる
- 施工時のリスクを減らす最もシンプルな方法は、手すりと床材を地上で組み立てた状態で吊り上げる設計にすること。
- そのために、吊り上げ専用の治具を設計段階で組み込むことで、高所作業を大幅に削減できる。
2. 床材の一部を後施工にする
- どうしても地上での完全組み立てが難しい場合は、床材の一部を後施工にすることで、高所作業の安全性を確保できる。
- 床を部分的に開けておくことで、吊り上げ時の作業スペースを確保し、作業員が安全な位置で作業できるようにする。
3. 吊り上げ時の安全対策
- 4点吊りを基本とし、2点にはチェーンブロックを取り付けて微調整できるようにする。
- これにより、吊り上げ時のバランスを取りやすくし、安全性を向上させる。
現場の現状と問題点
この現場では、手すりも床材も取り付けられていないため、結果として多くの作業が高所作業になってしまっている。つまり、事前のリスクアセスメントが不十分であったことが明白である。
「高所作業だから安全帯を付ける」「落ちないように注意する」という後付けの対策だけでは、本質的なリスク低減にはならない。本来であれば、設計段階で「そもそも高所作業をしなくて済む」ようにしておくべきなのだ。
結論:リスクアセスメントは設計段階から
建設現場におけるリスクアセスメントは、現場に入ってからではなく、設計段階から考えられるべきものである。高所作業が避けられないという前提ではなく、そもそも高所作業を減らす工法を取り入れることが、本当の意味でのリスクアセスメントである。
今回の現場を見ても、まだまだ「作業者にリスクを負わせる設計」が主流であることを痛感する。しかし、事故が起こる前に、設計・施工の双方で「高所作業を少なくする」取り組みを強化するべきではないだろうか。