安全を科学するResearch subject
レジリエンスエンジニアリング
レジリエンスは復元力・回復力・しなやかさと呼ばれ、困難な状況に直面した時に、一時落ち込んでもまた元の状態に回復する力、その回復するプロセスと言われています。
レジリエンスを植物に置き換えるといくら太い枝でも強風に耐えきらずに『ぽっき』と折れる事がありますが竹のようにしなやかさを持ていれば、強風で折れそうに曲がっても元に戻ります。
レジリエンスを分かりやすく、自動車の運転で説明します。
自動車の運転は状況が変化し再現性が不可能です。
急な飛び出しや路面の凍結など、あらゆる場面を想定しての手順を作ることは出来ません。
事前に修得させることが出来ないので、状況に応じて調整できる運転者の調整能力を伸ばすことが大事です。
この調整能力を状況に対して備えることをレジリエンスといいます。
レジリエンスは組織で実施する方法論がレジリエンスエンジニアリングです。
組織がレジリエンス力を高めることで、安全のみならず経営にも影響を与えます。
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SafetyⅠ&SafetyⅡ
SafetyⅠは「失敗から学び、失敗の原因を取り除く」というアプローチをとることに対して、SafetyⅡは「成功から学び、成功を増やすことによって、より高い安全性の実現を目指す」というアプローチをとります。
SafetyⅠでは 事故が発生すると、事故の要因分析を行い、その要因(ヒューマンエラーが多数)を減らすため、手順の変更、その手順の遵守というマニュアル主義に陥りがちになります。
現場第一線ではやることが次々に増えそれに応じて生産や効率へにプレッシャーがかかりまたまた、事故発生と負のループに陥ります。
レジリエンスエンジニアリングを進めるということはSafetyⅡを取り入れるということを意味します。
- <Step.1>可視化フェイズ
- 現場の「日常の状態」を生み出している属人的なノウハウや熟練者の「何気ない行動」「当たり前の行動」から、日常の状態をつくっているノウハウや工夫を可視化します。
- <Step.2>展開ツール開発フェイズ
- 何を予測し、何をモニタリングし、どんな対処をしているか、それは何から学習したのか。何事も起きない状態にするためのノウハウや工夫を展開、定着させる教育アプローチと、自らが積極的にノウハウや工夫を生み出す動機づけのアプローチの両面から取り組みます。
- <Step.3>展開フェイズ
- 社内で水平展開・自走を可能にするための取り組みを支援します。
心理的安全性
『心理的安全性』は、ハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が博士課程1年の学生時代の経験から始まります。チームでの複数の病院における医療ミスについての調査に加わり、チームワークが医療ミスにもたらす影響について調べていました。
チームには医師、看護調査官が含まれ、人的ミスの判定、カルテの再確認、治療に当たる人々からのインタビューを実施し、チームごとのミス率を算出するなど、データ収集活動は独自性が保たれた調査でした。
エドモンドソン教授は、アンケート調査を行うとともに、医師、看護師、スタッフのチームメンバーがどのような仕事をしているかを、時間をかけて観察を行いました。
実験当初は、最も高い成果を上げるチームは最もミスの少ないチームだと仮説を立てていたのですが、しかし、結果は驚くほど違っていました。
集められたミス率のデータとアンケート調査の統計分析を始めたところ、ミス率とチームの有能さの程度との間には相関関係があることがすぐに分かりました。しかし、その相関関係は予想とは真逆の相関であり統計的にも有意でした。優秀なチームほどミスが多かったのです。
医療はチームで行うものであり、良いコミュニケーションが取れている優れたチームの方が、ミスが増えるのは道理に適っていないはず、では、なぜこのような結果になったのか、有能なチームはミスの数が多いのではなく、報告する数が多いのではと考え、今までの経緯を知らない研究助手を雇い、チームの観察行うことにしました。
研究助手は、観察とインタビューを行い、人々が「ミスについて話せる」と感じるかはチームによって大きく異なることに気づきました。その違いはミス率と相関していました。優秀なチームのメンバーはミスの可能性について率直に意見を出し合い、回避するための方法を見つけるケースも多くあったのです。この研究から数年後、エドモンソン教授はこの風土の違いに『心理的安全性』と名付け、医療だけでなく多くの業界における研究を行い論文としてまとめられました。
『心理的安全性』はこのような研究から始まりました。エドモンソン教授は『心理的安全性はグループレベルで存在する』とシンプルで興味深い事実があると書いています。グループの長が心理的安全性の中心に位置すると言う事になります。
具体例
<東日本大震災時の福島第二原子力発電所>
福島第一原子力発電所同様に、第二原発も地震・津波による深刻な被害を受けた。
しかし、対照的に四基の原発を安全に停止し、核物質の飛散についても回避した。
- ・情報の共有
- (1)地震後の情報はすべてホワイトボードに書き所員全員に共有
(2)四基の原子炉確認を所員に求めた
(3)断る所員はいなかった - ・プラン変更
- 二号機より一号機の方がダメージが大きいというエンジニアからの進言により、増田所長が二号機から一号機への変更を指示。
正直になり、自分の弱さを認め、コミュニケーションを図り、情報を共有するという心理的安全性。
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ヒューマンエラー
・一人前のプロはエラーをしない
・ヒューマンエラーだ!また、同じミスだ
・初歩的なミスだ
・そんなばかな、何考えているのか
・精神がたるんでいる
・注意力が足りない
・こんな偶然はしかたがない
上記はヒューマンエラー発生原因に対する古典的な考え方です。エラーを科学的に理解することが重要です。
ヒューマンエラーとは
人間の生まれながらに持つ諸特性と人間を取り巻く広義の環境により決定された行動のうち、ある期待された範囲から逸脱したものです。
強調して言えば、ヒューマンエラーは、人間の本来持っている特性と、人間を取り巻く広義の環境がうまく合致していないために、引き起こされるものです。
⇒ヒューマンエラーは、原因ではなく、結果
ヒューマンエラー 起こすのも人、防ぐのも人
皆さんの周りで事故は起きていますか?建設業全体を見ても事故件数は少なくなっています。死亡事故は令和元年度269名となり、事故のニュースを聞くことも少なくなっているのではないでしょうか。しかしながら、全産業から建設業を見ると就労者数は10%で死亡事故は30%以上と3倍危険な業種であることに変化はありません。
事故は定常作業よりも非定常作業で起こることが多いと言われます。
製造業の多くはライン作業であり定常作業が主体になります。建設業も多くは定常作業ではありますが、大きな違いは、作業環境の日々の変化にあります。同じ作業でも昨日は曇りで日差しが無かったが、今日は良い天気で日差しがたっぷり。これだけで大きな違いになります。昨日と同じように作業を行っては、多くの汗をかき熱中症になるリスクも高まります。
ヒューマンエラーは誰もが引き起こす可能性を持っています。起こしていても事故に至らない場合もあります。ヒューマンエラーを引き起こすのも人、防ぐのも人なのです。
建設業では特に、ヒューマンエラーを引き起こすのも人、防ぐのも人という考え方をシッカリと持って欲しいと思います。
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リスクアセスメント
リスクの考え方は、ヨーロッパから入ってきた考え方です。製造業はいち早く取り入れ成果を出してきましたが、災害・事故の多い建設業は平成18年に安衛法が改正され導入が進みました。まだ、導入されていない”あなた”始めませんか?
リスクは至る所にあります。リスクを知らなければそれに対してどうすれば良いのかもわかりません。リスクって何でしょう。どうすれば良いのでしょう。そんな基本からリスクへの対応まで一緒に考えましょう。
リスクとハザード
ハザードマップという言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
ハザードは危険有害要因、簡単に言えば危険そのものを言います。どこにでもある『段差』も危険になります。
しかし、『段差』に人が近づくことが出来なければリスクにはなりません。
リスクは『段差』に人が近づくことができ、その『段差』に躓く恐れがある時に初めて『リスク』となります。
リスクはどのようなハザードがありそのハザードに人が近づく恐れがあるかどうかで決まります。
リスクアセスメント
作業行動その他行動に於ける、危険性及び有害性の特定と言われると、リスクアセスメントって難しく感じるかもしれませんが、段差(ハザード)に人が躓く可能性、そして躓いて転倒する、転倒して怪我をする怪我の程度で決まります。
建設建場では敷鉄板等で段差が発生します。このような場合、敷鉄板で躓き転倒した場合、膝から着けば膝の打撲、勢いよく転倒すれば骨折と災害の程度が考えられます。
ここまでは、私の主観で書いていますが、出来れば今までの災害のデーターから客観的に考える事が大切です。
心理学からの安全
心理学って何でしょう。いろんな面を見せてくれます。しかし、多くの人が心理学を安全衛生なら衛生面、人の内側である心、メンタルヘルスと感じておられるのではないでしょうか。
「心理学とは、人間の心理や行動に関する法則を明らかにしようとする学問です。このとき、科学的な方法を使ったものでなければ、心理学とよべません。」引用:『Newton 』2019年12月号P29
昨年まで、日本心理学会理事長を務めた、日本大学文理学部の横田正夫教授の言葉です。心理学は科学です。色々な実験を元に統計を用いて新しいルールや法則を探求する『心の科学』が心理学です。
安全は科学するもの
今まで以上に安全を進めるためには、今までと同じことでよいのでしょうか。
安全を科学する必要があるのではないでしょうか。見えないものを科学で見える化する、見えてくることから今まで通りでよい、いや違う方法がある、見えなければその先へ進めません。
進む道を探す方法、それが科学としての心理学だと考えます。主観で行う判断に客観性を持たせる、数値化することデータ化が蓄積されることで見え方が変わります。
安全は科学するものなのです。