濵口労働安全コンサルタント

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土木は経験工学――現場で学ぶ重要性を取り戻す

土木業界では、かつて「経験工学」と呼ばれるほど、経験から学ぶことの重要性が強調されてきました。現場での実体験を通じて、作業技術や管理ノウハウを積み上げることが、業界全体の発展に寄与してきたのです。しかし、昨今ではその姿が大きく変わりつつあるように感じます。

経験を積む場が減少する現場の現状

私が建設業界に入った頃、現場は「生きた教科書」そのものでした。鉄筋を組む作業から、型枠のセパ穴の墨出し、さらには組立まで、一連の工程を実際に手を動かしながら学びました。その中で職人の高度な技術や工夫を間近に見ることで、技術を磨き、現場の知恵を得てきました。当時の職人は本当の職人気質の方々ばかりで、彼らの姿勢や技術そのものが次世代の教育となっていました。

しかし現在では、管理者が膨大な書類業務に追われ、現場を見る時間が取れない状況が増えています。そのため、若手が実際に現場で経験を積む機会が減少しているのが現状です。加えて、業務の効率化や機械化が進む一方で、実務的な技術や知識が軽視される風潮も見られるようになりました。

現場で学ぶ重要性

現場で得られる経験には、単なる作業手順を超えた学びがあります。現場での失敗や成功の積み重ねから、判断力や問題解決能力が養われるのです。また、作業環境や現場の状況は毎回異なるため、実体験を通じて対応力が身につきます。こうしたスキルは、机上の勉強や書類だけでは決して身につけられないものです。

現場で得た知識や技術は、経験を共有することで他の従業員にも伝えられ、現場全体のレベル向上につながります。これが「経験工学」としての土木の真髄ではないでしょうか。

変わりゆく現場と向き合うために

業界全体が効率化や規模拡大を求める中で、昔ながらの「現場から学ぶ文化」を取り戻すことは容易ではありません。しかし、それでも重要なのは以下の取り組みです。

  1. 現場に立つ時間の確保
    管理者が書類業務に追われる状況を改善し、現場を見る時間を確保するための体制づくりが必要です。デジタル技術を活用して事務作業を効率化し、現場との接点を増やすことが求められます。
  2. 職人教育の再構築
    若手が現場で職人の技術を学ぶ機会を増やすために、職人の教育プログラムを充実させる必要があります。特に、熟練の職人が持つ「現場の知恵」を体系的に伝える仕組みが必要です。
  3. 経験の記録と共有
    現場での経験を記録し、それを共有する仕組みを整えることも重要です。例えば、写真や動画を活用した「現場ノウハウ」のデジタル化や、チーム内での経験共有の場を設けることが考えられます。

未来への提言

土木業界は人手不足や労働環境の変化といった課題に直面していますが、それでも「現場から学ぶ」という基本を忘れてはなりません。経験工学としての価値を再評価し、未来を担う人材の育成に力を入れることで、業界全体の底上げを図るべきです。

技術は進化しても、人が現場で得られる学びの重要性は変わりません。土木が本来持つ魅力や価値を次世代に引き継ぐために、今こそ原点に立ち返る時ではないでしょうか。

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