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経験工学とレジリエンスエンジニアリング(Resilience Engineering)

経験工学レジリエンスエンジニアリング(Resilience Engineering)は共通点が多く、互いに補完し合う関係にあると考えられます。どちらも、現場のリアルな経験や学びを重視し、複雑なシステムや環境に適応するための力を養うアプローチです。

以下に、両者の関係性について詳しく考察します。

経験工学とは

経験工学は、現場での経験を通じて技術や知識を向上させ、問題解決能力を養う学びのプロセスを指します。この方法論は、過去の失敗や成功から得た教訓を基盤に、新たな課題に適応していくことを重視します。

例えば、建設現場における職人や管理者が直面する問題に対して、実際の経験をもとに解決策を見つけるプロセスがこれに当たります。経験工学は、日々の仕事の中で「どうすればより良い結果を出せるか」という試行錯誤を支え、現場の知恵を次世代に伝える役割も果たしています。

レジリエンスエンジニアリングとは

一方で、レジリエンスエンジニアリングは、不確実で複雑なシステム(例:建設現場、交通網、医療システムなど)において、システム全体の柔軟性と適応能力を高めることを目的としています。この分野では、以下のような観点が重視されます:

  1. 失敗だけでなく成功から学ぶ
    レジリエンスエンジニアリングは、失敗だけでなく、成功の要因にも注目します。つまり、なぜあるプロセスがうまくいったのかを分析し、その知識を他の場面にも応用します。
  2. 適応能力の向上
    不測の事態に備えて、現場や組織が迅速に対応できる仕組みを構築します。例えば、建設現場での予期しない事故や自然災害に対して、即座に対応する力です。
  3. 複雑性を受け入れる
    複雑なシステムにおいて、すべてを完全に管理するのは不可能です。そのため、部分的な失敗を許容しながら、全体としての安定性を保つ仕組みを目指します。

経験工学とレジリエンスエンジニアリングの共通点

経験工学とレジリエンスエンジニアリングは、以下の点で密接に結びついています。

  1. 現場での知識の重要性
    両者とも、机上の理論だけではなく、現場での実体験を重視します。経験工学は、現場の知恵を次世代に伝える方法論ですが、レジリエンスエンジニアリングは、その知恵をシステム全体の適応力に活かします。
  2. 失敗からの学び
    経験工学では、過去の失敗を分析して次の成功につなげます。一方で、レジリエンスエンジニアリングでは、失敗から学ぶとともに、失敗がシステム全体に影響を与えない柔軟性を持たせることを目指します。
  3. 適応力の養成
    経験工学は、職人や管理者の「個人」の適応力を向上させることにフォーカスしますが、レジリエンスエンジニアリングは、現場や組織全体の「システム」としての適応力に注目します。

建設業における活用の可能性

経験工学とレジリエンスエンジニアリングを統合することで、建設業界に以下のような効果が期待できます。

  1. 経験を体系化し、現場に活かす
    経験工学を通じて現場の知識や技術を体系化し、教育ツールやデジタルデータとして蓄積することで、次世代への引き継ぎをスムーズにします。その際、レジリエンスエンジニアリングの視点を取り入れることで、不測の事態への対応力を強化できます。
  2. 現場の失敗を許容する仕組みの構築
    建設現場での失敗を「悪いこと」として処理するのではなく、学びの機会として活用し、現場の柔軟性を高めます。この考え方は、レジリエンスエンジニアリングの本質と一致します。
  3. 現場と管理層の連携強化
    書類作業に追われる管理層が、現場とのつながりを持つ仕組みを作ることで、経験工学を活用しやすい環境を整備します。これにより、現場と管理層が連携してシステム全体のレジリエンスを向上させることができます。

結論

経験工学は、個人やチームの技術や知識を磨く基盤を提供します。一方で、レジリエンスエンジニアリングは、その経験をシステム全体の適応力や柔軟性に昇華させる考え方です。両者をバランスよく取り入れることで、建設業界は現場の強化とシステム全体の安定性を同時に実現できるでしょう。

建設業界が抱える課題を克服するには、過去の経験を大切にしながら、新しい視点を取り入れる必要があります。経験工学とレジリエンスエンジニアリングの融合は、その解決策の一つとして非常に有効だといえます。

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