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希少性バイアスとは

希少性バイアス(Scarcity Bias)は、「限られているものには価値がある」と感じる心理的傾向を指します。人間は、資源や時間が限られている状況に置かれると、その価値を過大に評価し、冷静な判断ができなくなることがあります。このバイアスはマーケティングや消費行動でよく利用される一方で、安全管理や職場環境にも影響を与え、危険な行動を誘発することがあります。

今回は、この希少性バイアスについて具体例を交えながら説明し、安全対策をどのように行うべきかを考えていきます。

希少性バイアスの具体例

例1: 時間の希少性による判断ミス

建設現場で締め切りが迫っている状況を考えます。現場監督が「この作業を今日中に終わらせなければならない」と考え、安全手順を省略して作業員に指示を出したとします。

  • 結果:
    • 安全確認が不十分なまま作業が進み、重機の操作中に事故が発生。
  • 希少性バイアスの影響:
    • 限られた時間が「重要な資源」として認識され、リスク評価よりも作業のスピードが優先された。

例2: 資材不足による不適切な代替

建設プロジェクトで特定の安全用具(例: 耐火手袋)が不足している状況で、「手袋がないと作業が進まない」と考えた作業員が、通常の作業用手袋で代用したとします。

  • 結果:
    • 高温物質を扱う作業中に火傷を負う事故が発生。
  • 希少性バイアスの影響:
    • 安全用具が「希少」な状況に置かれたため、「手元にあるもので作業を続ける」という誤った判断がされた。

例3: 危険な状況での時間優先

工場での機械のメンテナンス中に、ラインが停止して生産スケジュールに遅れが生じたケースを考えます。ラインの再開を急ぐ現場責任者が「これ以上の遅れは許されない」と判断し、点検を途中で切り上げたとします。

  • 結果:
    • 点検不足によって機械の不具合が見逃され、再稼働後にトラブルが発生。
  • 希少性バイアスの影響:
    • 時間の不足が判断を歪め、メンテナンスの完全性よりもスピードが優先された。

例4: 限られた人員での無理な作業

工場や現場で人手不足の状態が続く中、管理者が「少人数で作業を回さなければならない」と判断し、少人数での高負荷作業を指示したとします。

  • 結果:
    • 作業員の疲労が蓄積し、判断力が低下してヒューマンエラーが発生。
  • 希少性バイアスの影響:
    • 「人手」という希少なリソースを過大評価し、無理な作業体制を選択してしまった。

例5: 非常時のパニック行動

避難訓練中、限られた出口をめぐって全員が同じルートに殺到し、出口が混乱状態に陥る場面を考えます。

  • 結果:
    • 一部の参加者が避難を諦める、もしくは別ルートを探す途中で危険な場所に進入する。
  • 希少性バイアスの影響:
    • 「出口」という希少なリソースが注目され、冷静な判断ができなくなる。

希少性バイアスが引き起こすリスク

希少性バイアスによって次のようなリスクが職場に発生します。

  1. 安全軽視
    • 限られた時間や資源を優先し、安全確認や手順を省略する。
  2. 判断力の低下
    • プレッシャーの中で冷静な判断ができなくなり、不適切な行動を取る。
  3. 心理的圧力の増加
    • 資源の不足がプレッシャーを生み、作業員が過剰なストレスを抱える。
  4. 事故の連鎖
    • 一つのミスや省略がさらなる問題を引き起こし、大規模なトラブルにつながる。

希少性バイアスへの対策

  1. 安全優先の文化を醸成する
    • 「時間や資源よりも安全が最優先」という考えを徹底する。
    • 例: 「どんなに急いでいても安全手順を省略しない」というルールを共有する。
  2. 事前の計画を強化する
    • 資源や時間が不足しないよう、余裕を持った計画を立てる。
    • 例: 締め切りに余裕を持たせる、または代替資材を事前に準備する。
  3. 教育と意識向上
    • 希少性バイアスのリスクを従業員に理解させる。
    • 例: 「限られた時間や資源が判断を歪める可能性がある」ことを具体例とともに共有する。
  4. 安全装備の適切な管理
    • 必要な安全用具や設備が不足しないよう、在庫管理や供給体制を整備する。
    • 例: 定期的な点検で不足があればすぐに補充する。
  5. リスクアセスメントを徹底する
    • 作業前に潜在的なリスクを評価し、リソース不足が生じても安全が損なわれないよう準備する。
    • 例: 代替手順や緊急時の対応策をあらかじめ設定しておく。
  6. 心理的安全性の確保
    • プレッシャーの中でも冷静に話し合える環境を整える。
    • 例: 締め切りや人手不足の際に無理な作業を強要せず、解決策を議論する場を設ける。

まとめ

希少性バイアスは、「限られた時間や資源を過大評価してしまう」人間の心理から生じるバイアスです。安全管理の現場においては、これが判断ミスや事故につながることが多々あります。時間や資源の不足を意識するあまり、安全確認や手順を軽視することは、結果的に大きなリスクを生む要因となります。

濱口労働安全コンサルタント事務所では、希少性バイアスを含む心理的要因を考慮し、職場の安全性を向上させるための具体的な対策を提案しています。限られた状況の中でも冷静に判断し、安全を最優先にする文化を築くことが、事故のない職場を実現する第一歩です。安全管理に関するご相談は、ぜひ当事務所までお気軽にお寄せください。

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