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希少性バイアスとバイオレーション

希少性バイアスは、ヒューマンエラーの分類で言うところの「バイオレーション(違反行為)」に直接属するケースが多いですが、状況によってはミス(エラー)として扱われる場合もあります。以下で、具体的にその関係性を説明します。


1. 希少性バイアスがバイオレーションに属する場合

バイオレーション(違反行為)とは、故意に規則や手順を無視して行う行為を指します。これには、時間的制約やリソース不足などのプレッシャーによる「リラクタント・バイオレーション(消極的違反)」も含まれます。

希少性バイアスとバイオレーションの例

  • 安全手順の省略
    「時間が足りないから、この確認工程を飛ばしてしまおう」と考える場合、これは明確なバイオレーションに該当します。
    • : 高所作業で「安全帯を装着する時間がない」と判断し、省略する。
  • リソース不足による代替行為
    「必要な資材が不足しているが、代用品でなんとかなるだろう」と手順を逸脱する場合もバイオレーションです。
    • : 耐熱手袋の代わりに通常の作業手袋を使用する。

このような行動は、「リスクを認識しながらも規則を故意に無視する」点でバイオレーションの典型例といえます。特に希少性バイアスが働く場面では、限られたリソースを過大評価し、ルール違反を正当化しやすくなるため、違反行為が発生しやすいのです。


2. 希少性バイアスがエラーに属する場合

一方、エラー(ミス)とは、意図せずに発生する間違いや判断ミスを指します。希少性バイアスが無意識のうちに判断を歪めた場合、これは「認知エラー」として扱われることがあります。

希少性バイアスとエラーの例

  • リスク過小評価による判断ミス
    限られた時間やリソースの中で、無意識にリスクを軽視してしまうケースです。
    • : 締め切りが迫る中で「これくらいなら大丈夫」と思い込み、不完全な確認で作業を進める。
  • 希少な選択肢への過信
    リソース不足により、現状の選択肢を「ベストな判断」と錯覚してしまう場合です。
    • : 工場で安全手順を省略しても「これしか方法がない」と無意識に判断する。

これらのケースでは、バイオレーションのように意図的に規則を破ったわけではなく、心理的なバイアスが原因で適切な判断ができなかったという点で「エラー」に分類されます。


バイオレーションとエラーの違いにおける希少性バイアスの位置付け

分類特徴希少性バイアスとの関係
バイオレーション規則や手順を故意に無視する行為希少性バイアスによって「規則を破っても仕方ない」という判断が正当化される場合。例: 安全装備を故意に省略する。
エラー無意識の判断ミスや注意不足希少性バイアスが無意識にリスクを過小評価させ、結果的に間違った判断や行動につながる場合。例: 手順を省略したリスクを軽視する。

3. 安全対策における希少性バイアスの捉え方

希少性バイアスがバイオレーションやエラーとして現れる場合、安全対策を講じる際には両面からのアプローチが必要です。

バイオレーション対策

  • 安全文化の強化
    「安全が最優先」という価値観を組織全体で共有し、リソース不足や時間的制約に流されない文化を築く。
  • 規則違反への明確な対応
    バイオレーションが発生した際の原因究明と再発防止策を徹底する。

エラー対策

  • 心理教育の実施
    希少性バイアスがどのように判断を歪めるかを学ぶ場を設け、従業員が自身のバイアスに気付けるようにする。
  • リスクアセスメントの強化
    作業前に時間やリソース不足が安全性に与える影響を評価し、適切な代替手段を検討する。

まとめ

希少性バイアスは、ヒューマンエラーの「バイオレーション」と「エラー」の両方に関わる可能性があります。このバイアスが働くと、意識的・無意識的にリスクを軽視し、安全手順やルールを逸脱する行動が誘発されます。

職場の安全を確保するためには、希少性バイアスの存在を認識し、組織全体で「安全を最優先にする文化」を育むとともに、教育や対策を通じてバイアスの影響を最小限に抑える取り組みが重要です。

濱口労働安全コンサルタント事務所では、希少性バイアスを含む心理的要因を考慮した安全管理の提案を行っています。リソース不足や時間的制約が発生しがちな現場でのリスクを軽減する方法について、ぜひご相談ください。

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