濵口労働安全コンサルタント

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心理的安全性5 心理的安全性を備えたチームとは

エイミー・エドモンドソン教授の著書、「恐れのない組織」に心理的安全性を備えたチームとして日本の福島第二原子力発電所が取り上げられています。東日本大震災で同じ福島の第一原子力発電所が核燃料溶融というレベル7の事故を引き起こしましたが、約15km南の福島第二原子力発電所では危機的な状況を回避したのです。

福島第二原子力発電所では、2011年平成23年)3月11日東日本大震災により、高さ9mの津波が襲い、浸水は建屋の一部にとどまったが、原子炉冷却用海水ポンプ4基中3基が一時危険な状態に陥った。これは原子炉冷却に必要な海水ポンプ3基と、それらの電源が海水に水没した状態であった。

この危機的な状態に立ち向かったのが、増田所長以下約400名の職員・作業員でした。増田所長は1982年建設中の福島第二に配属され、この原子力発電所を隅まで知り尽くしていました。増田所長は3基の冷却装置の状況から炉心溶融(メルトダウン)の危機を感じとっていました。

増田所長はまず、情報を全てオープンにしました。情報開示のツールとしてホワイトボードを使用し、そこに情報を書き、所員に知らせました。そして、現場確認を行うチームを編成し、各チームに詳細に指示を行い、その内容を復唱させました。所員は与えられた任務を地震直後の状態の中、遂行していったのです。

震災後12時間、3月12日午前2時、現場確認を行っていたチームの一つが、1号機裏の電源盤が使えることを報告しました。電源盤と冷却装置をつなぐためには重いケーブルを何本も敷設する必要があり、不足する資材は本社から送ってもらう手配をし、まず2号機から敷設作業に掛かりました。3基の原子炉に電力を供給するには、約9kmに渡り、1巻き200m、約1tのケーブルを人の手で敷設しなければなりません。

12日の夜、2号機より1号機が深刻な状態であることがわかりました。増田所長は所員の提案を素直に聞き入れ、自分の過ちを認め、作業を進めている所員に対して「やりなおすぞ、2号機から1号機へ変更だ」と心を鬼にして言いました。環境が心理的に安全であり、各自がどのような危機にさらされているかを認識していたため、全力をつくすことができ、すべての原子炉の冷却機能の回復に成功し、そのとき割れるような拍手が起きました。

このような危機的状況のなかで発揮されたリーダーシップは、被害を食い止めるべく増田所長が所員を一致団結させ導いた手段こそが、心理的安全性を生む重要な原則を忠実に守ったことに他なりません。それは、正直になり、自分の弱さを認め、コミュニケーションを図り、情報を共有した増田所長の姿勢です。

リーダーとして冷静に、率直に、間違いを認める潔さが、チームが状況を理解し、不安を克服し、問題解決への条件を生み出したのです。そこには心理的な安全性が得られる環境ができあがっていたことがありました。 心理的安全性は、安全に対してだけでなく、企業経営の全てに影響を及ぼすものです。成長を目指す企業にとって不可欠な要素と言えます。

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