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正常性バイアスとは
正常性バイアスとは、「異常な状況に直面しても、自分にとって都合よく『これまで通り大丈夫だろう』と考えてしまい、適切な対応を取れなくなる心理的傾向」を指します。このバイアスは災害時や緊急事態において特に顕著に現れ、避難の遅れや判断ミスを引き起こします。
人間の脳は普段の生活で慣れ親しんだ「いつもの状態」を基準に物事を判断します。そのため、異常な状況が目の前で起こっていても、「これは一時的なもの」「自分には影響しない」と考え、リスクを過小評価しがちです。正常性バイアスは安心感を得るための防衛本能とも言えますが、非常時には大きな危険を招くことがあります。
具体例 1: 大雨で河川が氾濫する危険性があるにも関わらず逃げ遅れる
大雨の影響で河川の水位が急激に上昇し、氾濫の危険性が高まっているという状況を想像してください。このような場合、自治体や気象庁から避難指示が出されることがあります。しかし、以下のような心理が働くことで多くの人が避難を遅らせてしまいます。
- 「これまで氾濫したことはないから大丈夫だろう」
過去の経験に基づいて、「自分の住んでいる地域は安全だ」という思い込みを優先し、危険性を軽視してしまいます。 - 「今から避難するのは大げさだ」
他の住民が避難していない様子を見ると、「自分だけ避難するのはおかしい」と考え、行動をためらいます。
例えば、2018年の西日本豪雨では、避難指示が出されたにもかかわらず、多くの住民が自宅に留まり、結果的に逃げ遅れたケースが多数報告されています。特に高齢者は「長年住んでいる地域だから大丈夫だ」という思い込みが強く、避難開始が遅れがちです。正常性バイアスが避難行動を妨げる典型的な事例と言えるでしょう。
具体例 2: 御嶽山の噴火時に逃げずにビデオ撮影・写真撮影をする
2014年9月27日に発生した御嶽山の噴火では、多くの登山者が避難するべき状況にもかかわらず、その場に留まりビデオや写真を撮影する姿が見られました。この行動も正常性バイアスの一例です。
- 「噴火は大きなニュースだし、記録しておきたい」
目の前の出来事を記録しようとする心理が、危険回避の行動よりも優先されてしまいます。 - 「今すぐ危険が迫っているわけではないだろう」
噴火の初期段階では爆発の規模が小さく見えるため、「すぐには影響がない」と楽観的に考えてしまう人が多かったと考えられます。
その結果、火山灰や噴石に巻き込まれて被害に遭った人が多くいました。このような行動は、日常では合理的に見える「情報収集の習慣」が緊急時には正常性バイアスとして働き、危険にさらされる原因となる典型的な事例です。