
―― 労働安全衛生の専門家は「社労士」ではなく「労働安全コンサルタント」
最近、SNSや講習会の場で「安全衛生」について社労士が語る場面を見かけるようになりました。
もちろん、労働基準法や就業規則、労働契約といった分野で社労士が活躍するのは当然のことです。
しかし、「労働安全衛生」、特に現場の安全管理やリスクアセスメント、作業手順の策定といった実務に踏み込んで語るとなると話は別です。
■ 社労士の専門領域は「制度・法令・書類管理」
社労士が得意とするのは、労働条件の整備や社会保険、雇用契約など「制度」や「法」の運用部分です。
労働基準法第1条から第百数十条までの条文を読み解き、適切な雇用環境を整えるのが主な仕事です。
そのため、社労士が扱う「安全衛生」は、書類上の管理にとどまることが多く、現場での実践的なリスク対応までは踏み込めません。
安全衛生管理体制を「組織図」として整えることはできても、現場で転落を防ぐための手すり高さの意味や、作業者の心理的安全性を高める声かけの重要性までは理解が及ばないのが実情です。
■ 労働安全コンサルタントは「現場を科学する専門家」
一方、労働安全コンサルタントは、厚生労働大臣登録の国家資格であり、唯一の安全衛生分野の専門家です。
現場を歩き、作業を見て、設備を点検し、人の行動を観察し、**「なぜ危険が生まれるのか」**を探ることが仕事です。
法律を読むだけでなく、現場の実態に即して、
- どの工程に危険が潜むか
- どうすれば安全行動が習慣化するか
- 組織文化として安全を根づかせるにはどうすればよいか
を考え抜く。それがコンサルタントの使命です。
現場では、「安全書類が整っていても事故が起きる」ことを我々は何度も見てきました。
書類で安全は守れない。守るのは“現場の人”の意識と行動です。
その行動を変えるには、心理学・人間工学・行動科学といった知見も欠かせません。
ここが、社労士と労働安全コンサルタントの決定的な違いです。
■ 「現場の空気」を知らない安全は机上の空論
現場の安全は、法令だけでは成り立ちません。
鉄骨の上で感じる風の強さ、真夏の舗装現場での熱気、クレーン作業の息を合わせるタイミング――。
そうした**「現場の空気」**を知らずして安全を語ることはできません。
「ヘルメットをかぶりましょう」だけでは事故は防げません。
「なぜ外してしまうのか」「なぜ声をかけられないのか」――
その背景にある人間の心理や現場文化を理解するのが、我々コンサルタントの役割です。
■ 現場の安全は現場の専門家が守る
社労士が労務管理の専門家であるように、
労働安全衛生はコンサルタントの専門分野です。
書類ではなく「現場」に立脚した提案を行い、
机上の理屈ではなく「実践」で安全を築く。
私たち労働安全コンサルタントは、
「安全」を“法令遵守”ではなく“命を守る技術”として伝えていきます。
そして、現場の声に耳を傾け、実践に寄り添う安全をこれからも築いていきます。
■ 結びに
「法律に詳しい人」と「現場を知る人」は違います。
安全衛生は条文を読むだけで語れるものではありません。
現場を知り、現場で生きる人のために安全を考える――それが労働安全コンサルタントの誇りです。