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~人間の脳から見た安全管理の本質~
職場では昔から「2:6:2の法則」という言葉があります。
よく働く人が2割。
普通に働く人が6割。
なかなか動かない人が2割。
働きアリの研究でも似たような現象が見られることから、「組織は自然に2:6:2に分かれる」と言われています。
しかし私は、安全コンサルタントとして現場を見ている中で、この法則は単なる能力差では説明できないと感じています。
むしろ、その人の能力よりも、「脳がどのような状態で動いているか」の方が重要ではないでしょうか。
つまり、2:6:2は能力ではなく思考状態によって生まれる現象だと考えられます。
人間には二つの思考モードがある
心理学者ダニエル・カーネマンは、人間の思考を二つに分類しました。
システム1
直感的で速い思考
- いつものやり方
- 習慣
- 思い込み
- 自動運転
脳の負担が少なく、省エネルギーで行動できます。
システム2
ゆっくり考える思考
- 本当に大丈夫か
- なぜそうするのか
- 他に危険はないか
論理的に考え、判断する状態です。
しかし、システム2は多くのエネルギーを使います。
人間の脳は本来、省エネを好むため、放っておけばシステム1を使おうとします。
つまり、人は意識しなければ自然と考えない状態に流れてしまうのです。
出来る2割とは何か
組織の中で「出来る人」と呼ばれる人たちは、常に周囲へアンテナを張っています。
- 危険を予測する
- 問題点を発見する
- 改善策を考える
- 周囲へ働きかける
これはシステム2を頻繁に使っている状態です。
安全管理で言えば、
「この作業手順で本当に大丈夫か」
「今日の風速で足場は問題ないか」
「この作業員は疲れていないか」
と考え続ける人たちです。
現場の安全を支えているのは、まさにこの層だと言えるでしょう。
つまり、出来る2割とは常に考え続けている人たちなのです。
中間の6割が組織を決める
実は最も重要なのは真ん中の6割です。
この人たちは決して能力が低いわけではありません。
ただ、人間の自然な特性として、
「周囲に合わせる」
という傾向を持っています。
上司が真剣なら真剣になります。
職長が手を抜けば手を抜きます。
周囲が指差呼称をすれば自分もします。
周囲がやらなければ自分もやりません。
つまり、この6割の人たちは「同調」する性質を持っているのです。
良い方向にも動きますし、悪い方向にも動きます。
安全文化を作る上で最も重要なのは、この6割なのです。
つまり、組織の質はこの6割がどちらに動くかで決まります。
出来ない2割とは何か
出来ない2割と言われる人たちも、必ずしも能力が低いわけではありません。
- 指示を誤解する
- 手順を飛ばす
- 注意が散漫になる
- 危険を軽視する
こうした行動が目立ちます。
しかし、その背景には、
- 経験不足
- 教育不足
- 疲労
- ストレス
- 過信
など様々な要因があります。
つまり、「出来ない人」ではなく、「考える状態になれていない人」と考えた方が実態に近いのかもしれません。
つまり、この層も環境次第で変わり得る存在なのです。
本当に恐ろしい事実
この法則で興味深いのは、
「出来る2割だけを集めても、また2:6:2になる」
という点です。
優秀な人ばかりを集めた組織でも、
誰かがリーダーになり、
誰かがフォロワーになり、
誰かが遅れを取ります。
つまり、
2:6:2は能力の法則ではなく、
人間集団の自然現象
なのです。
人間は無意識のうちに、
「誰かが考えてくれているから、自分はそこまで考えなくていい」
という状態になってしまいます。
これが集団心理の恐ろしさです。
つまり、どんな組織でも思考の偏りは必ず生まれてしまうのです。
AIでは解決できない理由
最近はKY活動やリスクアセスメントにもAI活用が進み始めています。
しかし、AIがどれだけ優秀になっても、
「人間が考える」
という行為を代行することはできません。
AIが作ったKYシートをそのまま読んで終わるなら、
それはシステム1による思考停止です。
本当に必要なのは、
「この現場では何が危険なのか」
を一人ひとりが考えることです。
安全はシステムや書類で作るものではありません。
考える人によって作られるものなのです。
つまり、安全は人の思考によってしか成立しないのです。
安全管理者の本当の仕事
では、安全管理者や職長の仕事とは何でしょうか。
ルールを増やすことではありません。
書類を増やすことでもありません。
本当の仕事は、
6割の人たちのシステム2を起動させること
です。
例えば、
- 朝礼で一言発言してもらう
- KYを自分の言葉で書いてもらう
- 指差呼称を実施する
- 危険予知を話し合う
- 声を掛け合う
こうした一見地味な活動です。
しかし、この「ひと手間」が脳を考える状態へ切り替えます。
つまり、安全管理とは人に考えさせる仕組みを作ることなのです。
おわりに
人間は考える生き物です。
しかし同時に、省エネを好む生き物でもあります。
だからこそ組織は自然に2:6:2へ分かれていきます。
安全管理とは、この人間の特性を否定することではありません。
人間は楽をしたがる。
人間は同調する。
人間は思い込む。
まず、その事実を理解することです。
その上で、考えるきっかけを現場へ仕掛ける。
私はそれこそが安全管理の本質であり、AIには真似のできない現場力だと思っています。
「人は情報不足で失敗するのではない。情報処理の限界によって失敗する。」
だからこそ、私たちは今日も現場で考え続けなければならないのです。
つまり、安全とは人が考え続けることで初めて守られるものなのです。