濵口労働安全コンサルタント

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現場力の劣化が引き起こす「あり得ない事故」——三宮クレーン事故を問い直す

神戸・三宮で発生したクローラークレーンの衝突事故。
4月15日、元請会社は「オペレーターの操作ミスが原因」とし、工事の再開を発表しました。

しかし、現場を見てきた者として、私はこの説明に強い違和感を覚えています。
なぜなら、この事故の本質は「単なる操作ミス」ではなく、現場全体のレジリエンス=現場力の劣化にあると感じるからです。

東京・八重洲の鉄骨崩壊事故に見る“共通点”

2023年9月、東京・八重洲で発生した鉄骨崩壊事故。
2人の鳶工が命を落としたこの事故もまた、「施工手順の逸脱」や「設計との乖離」ではなく、現場の異常に誰も気づかず、止められなかったことが問題の根底にありました。

作業が“止められない”、
異常が“見えていない”、
誰も“声を上げない”。

これこそが、現場力の劣化——すなわち、現場に備わるべき「気づき」「判断」「即応」の力の欠如です。

三宮クレーン事故も、同じ構図ではないか?

三宮の事故はこうです:

  • クローラークレーンが、施工範囲を越えて移動
  • 道路を隔てたビルの外壁にブームが接触
  • 荷は吊っていない
  • 誰も止めなかった
  • 工事関係者も、周囲の作業員も、誘導員も反応しなかった

この一連の流れは、「操作ミス」という一言で説明できるものではありません。

これは、現場の中で“何かがおかしい”と感じ、立ち止まる力が機能していなかったことを意味しています。
つまり、現場力が失われていたということです。

レジリエンス(現場力)とは何か?

私が言う「現場力(レジリエンス)」とは、単なる職人の経験や技術力のことではありません。

  • 異常に気づく観察力
  • 不測の事態に対処する判断力
  • 声を上げる勇気
  • 作業を止める決断
  • 仲間と連携して行動する対応力

これらが総合的に備わった“現場の人間力”のことです。
そしてこれは、講習や資格では身に付きません。現場の中で育まれる文化であり、組織の姿勢です。

なぜ、現場力が失われてきたのか?

  • 人手不足による人材の急造
  • 経験の浅い管理者の増加
  • 作業の分業化と責任の分散
  • 「やらされている感」が強くなった職場環境
  • 「安全第一」が形骸化し、数字管理だけが優先される風土

こうした要因が、現場から“本物の危機察知力”を失わせています。
そして今回のような、本来「起きないはず」の事故を起こすのです

最後に —— 操作ミスで終わらせてはならない

安全担当者の皆さんへ。
この事故を「操作ミス」で終わらせるのは簡単です。
しかしそれでは、またどこかの現場で、同じ“あり得ない事故”が繰り返されます。

本当に問うべきは、こうしたことではないでしょうか?

  • なぜ現場で異常に誰も気づかなかったのか?
  • なぜ止められなかったのか?
  • なぜ作業員が「声を出せる空気」がなかったのか?
  • なぜ現場に「見ている人」がいなかったのか?

現場力の復活が、今こそ必要です。
人を責めるのではなく、現場の力を取り戻す。
それが、安全文化の再構築への第一歩だと私は信じています。

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