西宮労働安全衛生大会で事例発表してきました
1月24日13時30分から、西宮神社内になる西宮神社会館で開催された西宮労働安全衛生大会に出席し、事例発表を行って来ました。
事例発表は、昨年中災防主催の全国労働安全衛生大会で発表した内容と同じく、大阪大学大学院で学んだ修士論文内容を発表しました。題目は『建設現場における指差呼称の実態把握と定着手法の思索について』です。ここで、内容をかいつまんでお話しします。
1.序論
建設業の従事者は全産業従事者の約1割であるが、労働災害の死傷者数は約3割と、多くの産業なのかで危険な産業になる。建設業における事故予防を概観すると、建設現場では労働安全衛生規則の改訂に伴う設備面の安全強化、労働安全衛生法に謳われている快適な職場環境の推進が行われ、全産業における労働災害も60年前と比べ8分の1へと減少している。
しかし、未だに年間300人近い労働者が事故により命を落とし、厚生労働省「労働災害原因要素の分析」(平成22年)によれば、労働災害発生の原因は、「不安全な行動」及び「不安全な状態」に起因しており、その多くがヒューマンエラーだということが分かっている。
そのなか、事故予防方法として「指差呼称」は多くの論文で有効性が検証され、誰にでもすぐできるヒューマンエラーに有効な安全確認方法であり、多くの産業界で実施され、建設業にも導入されているが、定着しているかのデータが大手建設会社・建設業災害防止協会などでも集約されていない。
研究では、建設現場における「指差呼称」の実態の調査を行い、上司より「指差呼称」を実施した作業員に対して「ほめたり・叱ったり」を行うことで「指差呼称」の定着を目指した。
2.実験1
予備実験として、大阪の現場において指差呼称の実態調査を実施した。調査は指差呼称を行うべき作業を特定し、その作業時に指差呼称が行われているかどうかを、私と現場安全担当者の二人で観察を行った。結果、全く指差呼称は実施されていなかった。
※指差呼称実態調査件数 70件中 指差呼称実施は0件
実験1は仮説として『指差呼称をした作業員を褒める・叱るにより指差呼称は定着する』とし、大阪及び福島2現場において実験を行った。実験デザインは下記の様に実施した。
〇大阪(介入群) 事前質問紙調査 全員に『指差呼称』教育 職長・職員に『ほめる・しかる』教育 そして私の介入(実態観察及び『ほめる・しかる』の実施)
〇福島(実験群) 事前質問紙調査 全員に『指差呼称』教育 職長・職員に『ほめる・しかる』教育
〇福島(統制群) 事前質問紙調査 全員に『指差呼称』教育
このように3群を設けることで、『ほめる・しかる』の有効性を確認することが出来ます。
3.実験1結果
事前質問紙調査から、指差呼称は知っており教育も今回の教育以前に7割の人が受けていることが分かりました。また、指差呼称は多くの人が有効と考えているが実際には行っていないことが判明しました。何故、指差呼称を行わないかについては、カッコ悪い、恥ずかしい、面倒だからよりも1.急いでいるから、2.普段から行っていないから、3.周りが誰も行っていないからが多く、環境に影響されることが分かりました。
実験結果を3×2分散分析で解析したところ、褒められ経験では3群共に事前事後の変化が少なく有意差は見られませんでした。叱られ経験も同様の結果になりました。指差呼称の実施状況について事前事後でt検定を実施た結果、介入群で0.07と有意傾向に高まった結果が現れました。介入群の観察結果から実験前には0回だった指差呼称が教育後5日目には79%、2週間後には94%、6週間後には96%と定着化へ進みました。実験終了後2週間の観察でも60%実施されており、介入の効果が持続していました。
4.実験1考察
指差呼称の実施に対して『ほめる・しかる』を行うことにより定着するという仮説は支持されませんでした。その理由として
①建設業特有の人の入れ替わりが発生しコミュニケーションが不足したのではないか
②『ほめる・しかる』を『指差呼称』に限定したため、褒められるであろう行為に対してほめられなかった
③『ほめる・しかる』教育が1回だけであり、『ほめる・しかる』経験の無回答が多いことからほめる人(職員・職長)がほめていなかったことが考えられる。
しかし、介入群では一定の効果が現れたことから、『ほめる・しかる』の意義をしっかりと勉強した人物が定期的に介入を行うことによる効果はあると考えられる。