
夜間作業に潜む熱中症と「湿度」の罠
夏の夜は、昼間のような強い日差しがありません。
そのため、「夜なら少し涼しい」「昼間より熱中症の危険は少ない」と感じる人も多いと思います。
確かに、夜間は太陽の直射光がなくなります。
しかし、日本の夏の夜には、昼間とは異なる熱中症の危険があります。
その大きな原因が、湿度です。
夜間は気温が少し下がっても、湿度が高く、風が弱いと蒸し暑さが残ります。汗をかいても乾きにくく、体の熱を逃がせない状態になります。
夜の熱中症は、「暑いのに暑さを感じにくい」ことが怖いのです。
WBGTは湿度が7割を占める
熱中症の危険度を見る指標に、WBGT値、いわゆる暑さ指数があります。
WBGTは、単なる気温ではありません。
人体にかかる熱の負担を、次の三つの要素から見ています。
- 湿度
- 日射・照り返しなどの輻射熱
- 気温
屋外で太陽の直射がある場合、WBGTは次の式で計算されます。
WBGT=湿球温度×0.7+黒球温度×0.2+乾球温度×0.1
湿球温度とは、湿度が高く、汗が蒸発しにくい状態を反映する温度です。
つまり、WBGTでは湿度の影響が7割を占めています。
昼間は、太陽光や照り返しの影響が大きくなります。
しかし夜間は直射日光がなくなっても、湿度の影響は消えません。
むしろ、夜は気温が下がることで相対湿度が高くなり、汗が蒸発しにくくなることがあります。
汗をかいているのに、体の熱が逃げない。
これが、夜間の熱中症の大きな危険です。
昼と夜では「水分補給への意識」が違う
昼間の作業では、太陽光が直接体に当たります。
顔から汗が流れ、服も濡れ、誰もが「これは暑い」「水を飲まなければ危ない」と感じやすくなります。
そのため、昼間は作業員自身も、水分や塩分を補給しなければならないという心理状態になりやすいものです。
しかし、夜間は違います。
夜は日差しがないため、昼ほど強い暑さを感じません。
ところが実際には、湿度が高く、蒸し暑さで汗をかいています。
汗は出ている。
しかし、「太陽が出ていないから大丈夫」「昼間ほど暑くない」と考え、水分・塩分補給を後回しにしてしまうことがあります。
ここに夜間作業の危険があります。
昼間のように強い暑さを自覚していないため、知らないうちに水分と塩分を失っていきます。
気がついた時には、頭痛、だるさ、吐き気、足のけいれん、判断力の低下などが起きていることがあります。
夜間の熱中症は管理者が防ぐ
夜間作業では、作業員の「喉が渇いたら飲む」という自己管理だけに任せてはいけません。
喉の渇きを感じた時には、すでに体内の水分が不足し始めていることがあります。
また、夜間は暑さを過小評価しやすく、水分補給そのものを忘れてしまうことがあります。
だからこそ、管理者が休憩を計画的に入れ、水分・塩分補給を強制的に行わせる仕組みが必要です。
例えば、
- 作業開始前に水分と塩分を補給する
- 一定時間ごとに全員を休憩させる
- 休憩時には必ず飲水するルールにする
- 飲料だけでなく塩飴、経口補水液、スポーツ飲料なども準備する
- 作業員同士で体調を確認する
- 管理者が顔色、返事、歩き方、動きの変化を見る
といった対応が必要です。
「休憩してください」だけでは不十分です。
休憩時間に、実際に水分・塩分を摂っているかまで確認することが大切です。
厚生労働省も、高温多湿作業場所では、自覚症状の有無にかかわらず、作業前後と作業中に定期的な水分・塩分摂取を指導するよう示しています。
都市部は夜になっても暑さが残る
都市部では、昼間に建物、道路、鉄骨、コンクリートなどが熱をため込みます。
太陽が沈んでも、その熱はすぐには消えません。
夜になってからも、道路や建物から熱が放出され、気温が下がりにくくなります。
これがヒートアイランド現象です。
特に、ビルに囲まれた場所、舗装面が多い場所、風が通りにくい場所、建物の屋上や機械室、地下やピット内部などでは、夜間でも熱がこもります。
夜だから涼しいとは限りません。
現場ごとのWBGTを確認し、その場所の湿度、風、熱のこもり方を見ながら作業を管理する必要があります。
まとめ
夜間は直射日光がないため、昼間より安全に思えます。
しかし、WBGTでは湿度の影響が7割を占めます。
湿度が高ければ、汗が蒸発しにくく、体の熱を逃がすことができません。
昼間は、強い日差しと大量の汗によって、水分・塩分補給の必要性を自覚しやすいものです。
一方、夜間は蒸し暑さで汗をかいていても、「昼ほど暑くない」と感じ、水分補給を忘れがちです。
だからこそ夜間作業では、作業員任せにしてはいけません。
管理者が定期的に休憩を入れる。
水分と塩分を必ず補給させる。
そして、仲間の小さな変化を見逃さない。
夜間の熱中症は、湿度と油断が重なることで起こります。
夜こそWBGTを確認し、計画的な休憩と水分・塩分補給を徹底することが、命を守ることにつながります。
参考資料
- 環境省「暑さ指数(WBGT)の詳しい説明」
- 厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」
- 菊池聡「災害における認知バイアスをどうとらえるか-認知心理学の知見を防災減災に応用する-」