
熱中症というと、「暑さで倒れる病気」と思われがちです。
しかし、本当に危険なのは、脳が正常に働かなくなることです。
熱中症は、単に体温が高くなる病気ではありません。
脳が体温をコントロールできなくなることで、一気に命の危険へ進んでしまう病気なのです。
脳は体温を管理する司令塔
私たちの脳には、体温を一定に保つための司令塔があります。
暑くなると脳は、
- 汗をかく
- 皮膚の血管を広げる
- 心拍数を増やして熱を逃がす
という命令を全身へ送り、体温を約37℃前後に保とうとしています。
つまり、汗をかくことも、血液を循環させることも、すべて脳からの指令なのです。
脳が熱に負けると、体温は下がらなくなる
ところが、高温多湿の環境で作業を続け、水分や塩分が不足すると、深部体温は少しずつ上昇していきます。
深部体温がおよそ40℃を超えるような状態になると、脳そのものが熱による障害を受け始めます。
すると、体温を下げるための指令を十分に出せなくなります。
汗をかく力も低下し、血管を広げて熱を逃がす働きも弱くなります。
つまり、体温を下げるための「レジリエンス(回復する力)」が働かなくなるのです。
その結果、体温はさらに上昇し、脳へのダメージはますます大きくなります。
やがて意識障害やけいれんを起こし、腎臓、肝臓、心臓など全身の臓器にも障害が広がり、多臓器不全へと進行します。
ここまで悪化すると、救命は極めて困難になります。
熱中症になると、自分で熱中症と気付けない
熱中症が怖い理由は、もう一つあります。
脳の働きが低下すると、
「まだ大丈夫。」
「あと少し頑張れる。」
「休まなくても平気。」
と、自分で判断してしまうことです。
認知心理学では、人は判断力が低下すると、自分の判断が間違っていることにも気付けなくなることが知られています。
つまり、熱中症になると、自分では熱中症だと気付けなくなるのです。
これが、熱中症が重症化しやすい最大の理由です。
命を救うのは初期対応
だからこそ、熱中症は「重症になってから治療する病気」ではありません。
少しでも、
- 顔色がおかしい
- 返事が遅い
- ふらついている
- 汗のかき方が急に変わった
- 水分を飲みたがらない
このような変化が見られた時点で、
- 作業を中止する
- 涼しい場所へ移動する
- 体を冷やす
- 水分・塩分を補給する
- 必要であれば迷わず救急車を要請する
この初期対応が、命を救います。
「もう少し様子を見よう。」
この判断が、一番危険なのです。
まとめ
熱中症は、暑さに負ける病気ではありません。
脳が熱に負ける病気です。
脳が正常に働いている間は、汗をかき、血液を循環させ、体温を下げようとします。
しかし、その働きが破綻すると、体温はさらに上昇し、自分で回復することは極めて難しくなります。
だからこそ、熱中症対策で最も重要なのは、重症化する前に対応することです。
そして、本人が気付けなくなる病気だからこそ、一緒に働く仲間や管理者の「気付き」と「声掛け」が命を救います。
私は安全管理の仕事を通じて、いつもお伝えしています。
「人は事故を起こします。しかし、人は事故の拡大を止めることもできます。」
熱中症も同じです。
早く気付き、早く行動する。
その一歩が、大切な命を守ることにつながるのです。