
私たちは毎日、数え切れないほどの判断をしています。
その判断の中には、「最初に決めたこと」に引っ張られてしまうものがあります。また、「ここまでやったのだから、今さらやめられない」と感じることもあります。
この二つの心理が、アンカリングとサンクコスト効果です。
実はこの二つは別々に働くのではなく、多くの場合セットで現れます。
アンカリングとは
アンカリングとは、最初に得た情報や最初に決めたことが「錨(アンカー)」となり、その後の判断が引っ張られてしまう心理です。
例えばスーパーで、
「通常価格10,000円」
「本日5,980円」
と表示されていると、本当に必要かどうかよりも「4,000円も安い」という最初の価格に判断が引っ張られます。
これは日常でもよくあることです。
サンクコスト効果とは
サンクコストとは、すでに使ってしまった時間や労力、お金のことです。
例えば映画館で、面白くない映画を見ているのに、
「お金を払ったのだから最後まで見よう」
と思った経験はないでしょうか。
あるいは、登山で疲れているのに、
「ここまで登ったのだから山頂まで行こう」
と無理をしてしまうこともあります。
本来なら途中でやめた方が良い状況でも、「ここまでやった」という気持ちが判断を狂わせます。
建設現場ではどうでしょう
朝礼で、
「今日はここまで終わらせよう。」
という目標を決めます。
これがアンカリングです。
ところが午後になると、
・予定より作業が遅れている。
・天候が悪化してきた。
・作業員にも疲労が見えてきた。
本来なら計画を見直し、「今日はここまで」と判断すべき場面です。
しかし、
「あと少し。」
「ここまでやったのだから。」
という気持ちが働きます。
これがサンクコスト効果です。
つまり、
最初に決めた目標(アンカリング)があり、その目標を達成したいという気持ちが、途中で引き返せなくする(サンクコスト効果)。
事故は、この流れの中で起こることがあります。
バイアスは一つでは終わらない
さらに怖いのは、ここで終わらないことです。
「今日はここまで終わらせる。」
(アンカリング)
「ここまでやったのだから。」
(サンクコスト効果)
「今まで事故は起きていない。」
(正常性バイアス)
「みんな続けている。」
(同調性バイアス)
「部長も続けろと言っている。」
(権威バイアス)
このように、一つのバイアスが次のバイアスを呼び込みます。
事故は一つの原因ではなく、複数の認知バイアスが数珠つなぎになった結果として起こることが少なくありません。
SafetyⅡの視点
事故が起きると、
「なぜ止めなかったのか。」
と考えがちです。
しかしSafetyⅡでは、
「止められる職場だったのか。」
という視点で考えます。
工程の変更を言いやすい雰囲気だったのか。
「今日はここまでにしよう。」と言える職場だったのか。
撤退する判断が評価される文化だったのか。
安全とは、最後までやり切ることではありません。
状況が変われば計画を変える勇気を持つこと。
それこそが事故を防ぐ本当の安全文化なのだと思います。