
人は環境によって変わる ― レヴィンの「場の理論」
「なぜ、あの人はこの職場では活躍しているのに、別の部署では力を発揮できなかったのだろう。」
「新人の頃は消極的だった人が、数年後には頼れるリーダーになっていた。」
このような場面を、皆さんも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
私たちは、人の行動をつい「性格」や「能力」で説明したくなります。
「あの人は積極的な人だから。」
「あの人は責任感があるから。」
「あの人はやる気がないから。」
しかし、心理学では少し違った見方をします。
その考え方を提唱したのが、社会心理学者クルト・レヴィンです。
彼は、人の行動を次のような式で表しました。
行動(Behavior)= 個人(Person)と環境(Environment)の関数
つまり、
「人の行動は、その人だけで決まるものではありません。周囲の環境との相互作用によって決まる。」
ということです。
この考え方は「場の理論(Field Theory)」と呼ばれ、現在の組織心理学や教育学、さらには安全管理にも大きな影響を与えています。
なぜ同じ人なのに行動が変わるのか
皆さんの会社でも、このような経験はないでしょうか。
ある部署では目立たなかった人が、異動先では中心となって活躍する。
逆に、優秀と言われていた人が、部署が変わると力を発揮できなくなる。
もし能力だけで決まるのであれば、このようなことは起こらないはずです。
しかし実際には、職場の雰囲気、上司との関係、仲間との信頼関係、仕事の進め方など、「場」が変わることで、人の行動も大きく変わります。
つまり、行動を理解するためには、人だけを見るのではなく、その人を取り巻く環境を見る必要があるのです。
安全管理も同じです
私は安全教育の中で、いつもお伝えしていることがあります。
「人を責めるのではなく、環境を見ましょう。」
事故が起きると、
「注意不足だった。」
「確認しなかった。」
「経験が足りなかった。」
という言葉が並びます。
もちろん、それらも原因の一つかもしれません。
しかし、その人が確認しづらい職場ではなかったでしょうか。
忙しすぎる工程ではなかったでしょうか。
分からないことを質問できない雰囲気ではなかったでしょうか。
もし環境に問題があれば、同じ事故は別の人でも繰り返されます。
だから私は、人ではなく「場」を見ることが、安全管理の出発点だと考えています。
安全文化は「場」が育てる
近年、安全管理では「SafetyⅡ」という考え方が注目されています。
SafetyⅡは、人の失敗だけを見るのではなく、「なぜ毎日安全に仕事ができているのか」を考えます。
この考え方も、実はレヴィンの場の理論とよく似ています。
人に「もっと注意しなさい」と求めるだけでは、安全は長続きしません。
安心して相談できる。
危険だと思ったら「止めましょう」と言える。
困ったときに仲間が助けてくれる。
そんな環境があるからこそ、人は安全に行動できるのです。
次回は「2:6:2の法則」を考えます
組織には「2:6:2の法則」という有名な考え方があります。
しかし、この法則をよく考えると、一つの不思議な現象があります。
上位2割の人がいなくなっても、また新しい上位2割が現れる。
これは、なぜなのでしょうか。
能力が高い人が増えたのでしょうか。
それとも、別の理由があるのでしょうか。
次回は、この「2:6:2の法則」をレヴィンの場の理論から読み解いてみたいと思います。
人を見るのではなく、「場」を見る。
そこから、安全文化の本質が少しずつ見えてくるはずです。