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―「事故を起こさない」だけの安全管理から一歩先へ―

ブログ

2026.08.28

建設業では、長年にわたってさまざまな安全管理活動が行われてきました。

リスクアセスメント、KY活動、安全パトロール、安全教育、作業手順書、ヒヤリハット活動、指差呼称。事故が起これば原因を調査し、再発防止対策を立てます。

こうした取り組みによって、建設現場の安全性は確実に向上してきました。

では、ここで一つ考えてみたいと思います。

今までと同じ安全管理をさらに強化していけば、事故はゼロになるのでしょうか。

私は、ここに現在の安全管理の一つの壁があるように感じています。

事故から学ぶSafety-I

これまでの安全管理の基本は、

「なぜ事故が起きたのか」

を考えることでした。

事故が起これば原因を調べます。

作業手順に問題はなかったか。設備に不備はなかったか。作業員はルールを守っていたか。教育は十分だったか。

原因を見つけ、それを取り除き、同じ事故を繰り返さないようにする。

これはSafety-Iと呼ばれる考え方です。

もちろん、Safety-Iが間違っているわけではありません。

事故から学ぶことは、これからも安全管理の基本です。

しかし、事故が発生すると、

「確認不足だった」

「注意が足りなかった」

「ルールを守らなかった」

というように、原因が人に向かうことがあります。

そして最後には、

「再教育を実施する」
「注意喚起を徹底する」

という対策で終わってしまう。

これで本当に事故の原因を取り除いたことになるのでしょうか。

人はなぜ、その行動をしたのか

ここで視点を変えてみます。

「なぜ間違えたのか」ではなく、

「なぜ、その人はその状況で、その行動を選んだのか」

と考えてみるのです。

時間に追われていなかったか。

人員が不足していなかったか。

作業手順と実際の現場に違いはなかったか。

資材の置き場所が変わっていなかったか。

周囲の作業と干渉していなかったか。

疲労していなかったか。

そして、「危ない」と感じても作業を止めにくい雰囲気ではなかったか。

人の行動だけを見るのではなく、人と環境の関係を見る。

心理学者クルト・レヴィンは、人間の行動を、

B=f(P,E)

と表しました。

行動(Behavior)は、個人(Person)と環境(Environment)の関数であるという考え方です。

事故を起こした人だけを見ていては、事故の全体像は見えてこないのです。

Safety-IIは「うまくいった日」を見る

ここで登場するのが、エリック・ホルナゲル教授らが提唱してきたSafety-IIの考え方です。

Safety-IIで注目するのは事故だけではありません。

むしろ、

「なぜ今日も事故が起きなかったのか」

を考えます。

一つの建設現場を考えてみましょう。

何百人という人が働き、重機が動き、資材が運ばれ、高所作業が行われます。

しかも現場の状況は毎日変化します。

それでも、ほとんどの日は事故を起こさず仕事を終えています。

なぜでしょう。

作業員が計画書どおりに動いているだけではありません。

「ここに置くと邪魔になるから少し動かそう」

「今日は風が強いから、この作業は後にしよう」

「新人だから少し見ておこう」

「重機が来たから一度作業を止めよう」

こうした小さな判断と調整が、現場では無数に行われています。

それによって仕事が成立しているのです。

人は事故原因であると同時に、安全をつくる存在

ヒューマンエラーを考えるとき、私たちは人間の弱い部分に目を向けがちです。

人は忘れる。

人は勘違いする。

人は思い込む。

人は注意を失う。

確かにそのとおりです。

しかし、人間にはもう一つの側面があります。

人は変化に気づきます。

人は仲間を助けます。

人は予定を変更します。

人は「何かおかしい」と感じます。

そして危険だと思えば、作業を止めることもできます。

人は事故の原因になる存在であると同時に、毎日事故を防いでいる存在でもあるのです。

Safety-IIは、こちらにも目を向けます。

Safety-Iを捨てるのではない

Safety-IIというと、「これまでの安全管理を否定する考え方」と受け取られることがあります。

私はそうは考えていません。

事故が起きれば原因を調べる。

設備の不備があれば改善する。

ルールが必要なら作る。

Safety-Iは必要です。

しかし、それだけでは見えない安全があります。

事故という「失敗」だけを見るのではなく、毎日起きている膨大な「成功」にも目を向ける。

Safety-IにSafety-IIを加える。

そこに、これからの安全管理の可能性があるのではないでしょうか。

そして今、建設業にもAIの大きな波が押し寄せています。

AIは安全管理にも使われ始めています。

では、Safety-IIの視点から見たとき、AIにはどこまで安全を任せればよいのでしょうか。

次回は、最近耳にするようになった「AIによる危険予知」について考えてみたいと思います。

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