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「良い現場所長は、何を見て、何を考えているのか」― 現場経験から考えるSafety-IIとレジリエンス ―

ブログ

2026.09.15

第5回 Safety-IIは、優れた現場の中にあった

― 事故を防ぐだけではなく、「うまくいく現場」をつくる ―

これまで4回にわたり、私が現場所長として経験してきたことを振り返ってきました。

第1回では、非常時の判断力は平常時につくられるということ。

第2回では、所長には目の前だけではなく、「次を見る力」が必要だということ。

第3回では、元請の仕事は協力会社を動かすことではなく、仕事をしやすい環境をつくること

第4回では、「現場は家族」という私の考え方から、人と人との関係について書きました。

こうして振り返ってみると、一見別々に見えるこれらの考え方には、一本の共通した軸があります。

それは、

「何かが起きてから対応するのではなく、何も起きていない時に、うまくいくための条件を整えておく」

という考え方です。

今の私は、ここにSafety-IIやレジリエンスにつながるものを感じています。

Safety-Iは「失敗」に注目する

従来の安全管理では、事故や災害が発生すると、

「なぜ事故が起きたのか」

「誰が間違えたのか」

「どのルールが守られなかったのか」

「再発を防ぐために何をするのか」

と考えます。

もちろん、これは必要です。

事故原因を調べ、同じ事故を繰り返さないように対策する。

これが従来から行われてきたSafety-Iの基本的な考え方です。

しかし、現場では事故が起きている時間よりも、事故が起きずに仕事が終わっている時間の方が圧倒的に長いのです。

では、なぜ今日も無事に仕事が終わったのでしょうか。

単に「事故が起きなかったから」なのでしょうか。

私は、そうではないと思います。

現場では毎日、小さな調整が行われている

建設現場は、計画通りにすべてが進む場所ではありません。

天候が変わる。

工程が変わる。

人員が変わる。

資材の搬入時間が変わる。

重機の配置が変わる。

他の作業との取り合いが発生する。

昨日と今日で、まったく同じ条件になることなどありません。

それでも現場では仕事が進んでいきます。

なぜでしょう。

職長が判断する。

作業員が声を掛け合う。

予定していた方法が使えなければ別の方法を考える。

危ないと思えば作業を止める。

工程を調整する。

必要なら応援を呼ぶ。

つまり、現場で働く一人ひとりが、その時の状況に合わせて小さな調整を続けているからです。

私は、ここを見ることがSafety-IIでは非常に重要だと考えています。

「事故がなかった」だけでは見えないもの

一日の仕事が無事に終わった。

安全日報には、

「災害なし」

と書かれるかもしれません。

しかし、その「災害なし」の裏側には、たくさんの判断があります。

誰かが危険に気づいたかもしれない。

職長が工程を少し変更したかもしれない。

作業員同士が声を掛け合ったかもしれない。

所長が前日に問題を予測して、先に作業場所を整えていたかもしれない。

こうしたことは、事故が起きなければ記録にも残らないことが多いでしょう。

しかし、本当の安全は、こうした日常の小さな成功の積み重ねによってつくられているのではないでしょうか。

Safety-IIでは、失敗だけを見るのではなく、

「なぜ今日もうまくいったのか」

にも目を向けます。

ここに、これからの安全管理を考える大きなヒントがあります。

所長一人で現場を安全にはできない

私は現役時代、大きな現場では100人を超える作業員と仕事をしていました。

当然ですが、所長一人の力で100人全員を安全にすることなどできません。

だからこそ、所長がするべきことがあります。

みんなが安全に仕事のできる環境を整えることです。

次の工程を考える。

必要な設備を準備する。

作業場所を確保する。

他業者との調整をする。

そして、人と人との関係もつくる。

私は、

「協力会社に仕事をさせている」のではなく、「協力会社に仕事をしていただいている」

と考えていました。

専門能力を持った人たちが、それぞれの力を十分に発揮できる環境を元請がつくる。

そうすれば、現場で何か小さな変化が起きても、それぞれが考え、声を掛け、対応することができます。

これは、レジリエンスの高い現場につながります。

「現場は家族」も安全につながっていた

私は現役時代、

「現場は家族」

だと考えていました。

ソフトボール大会、焼肉大会、餅つき大会など、仕事以外の親睦にも力を入れていました。

北海道の現場では、協力会社の作業員をこちらからもてなしたこともあります。

当時は「心理的安全性を高めよう」「レジリエンスを高めよう」などと考えていたわけではありません。

そんな言葉も意識していませんでした。

ただ、

みんなが気持ちよく仕事のできる現場にしたい。

そう考えていました。

しかし今振り返ると、人間関係をつくることも安全に大きく関係していたことが分かります。

顔を知っている。

名前を知っている。

話したことがある。

一緒に笑ったことがある。

その関係があれば、

「ちょっと危ないですよ」

「これ、おかしくないですか」

「少し手伝ってください」

という一言が出やすくなります。

安全を支えるのは、ルールだけではありません。

人と人との関係も、安全設備の一つなのです。

Safety-IIは特別なものではない

私はSafety-IIの考え方に共感しています。

しかし、Safety-IIという言葉を知ったから、突然まったく新しい安全管理を始める必要があるとは思っていません。

優れた職長や所長は、昔から現場の変化を見ていました。

次を考えていました。

予定通りにいかなければ調整していました。

人を見ていました。

仲間に声を掛けていました。

そして、仕事がうまく進むように環境を整えていました。

つまり、Safety-IIという名前を知らなくても、その考え方につながる実践は現場の中に存在していたのです。

大切なのは、それを経験や勘だけで終わらせないことだと思います。

「できる所長だからできた」

「ベテランだから分かる」

で終わらせてしまえば、次の世代には伝わりません。

なぜ、その人は気づけたのか。

なぜ、先を読むことができたのか。

なぜ、その現場では声を掛け合えたのか。

なぜ、予定外のことが起きても仕事を続けられたのか。

うまくいった理由を言葉にして、次の世代へ伝える。

これもSafety-IIの大切な役割だと思います。

「考える所長」を育てる

これからの安全教育で必要なのは、ルールを覚えることだけではありません。

もちろん、法令もルールも基本です。

しかし、それだけでは想定外には対応できません。

必要なのは、

「なぜ?」

「この次は?」

「もし変わったら?」

「ほかに方法は?」

と考えられる人を育てることです。

第1回で取り上げた、

Stop ― Look ― Think

に戻ってきます。

一度止まる。

周囲を見る。

そして考える。

これは新人作業員にも、職長にも、所長にも必要な基本だと思います。

そして考える習慣を日々積み重ねることで、変化に気づき、次を予測し、状況に応じて対応する力が育っていく。

それがレジリエンスにつながります。

良い現場とは何だろう

事故がゼロだった現場。

工程通りに完成した現場。

利益を上げた現場。

もちろん、どれも良い現場の条件でしょう。

しかし私は、もう一つ加えたいと思います。

そこで働く人たちが、それぞれの力を発揮できた現場。

所長が先を考える。

元請が環境を整える。

職長が状況を判断する。

作業員が変化に気づく。

会社や立場を越えて声を掛け合う。

そして、予定外のことが起きても、みんなで調整しながら仕事を前へ進める。

その結果として、

今日もみんなが無事に家へ帰る。

それこそが、私の考える良い現場です。

そして、これまで5回にわたって書いてきたことを一つの言葉にまとめるなら、やはりこれになります。

優秀な所長は、何かが起きてから動くのではない。
何も起きていない時から次を考え、人が力を発揮できる環境を整えている。

Safety-IIやレジリエンスを学んだ今、改めて現役時代を振り返ると、この言葉の意味が以前よりよく分かるような気がします。

安全とは、事故を起こさないためだけにつくるものではありません。

人が考え、人が支え合い、人が力を発揮することで、毎日の仕事を「うまくいく状態」にする。

そこに、これからの安全管理の一つの姿があるのではないでしょうか。

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