
前回は「正常性バイアス」を紹介しました。
今回は、多くの人が毎日のように経験している「確証バイアス」についてお話しします。
確証バイアスとは、
「自分が信じていることを裏付ける情報ばかりを集め、反対の情報を無意識に避けてしまう心理」
のことです。
人は「私は客観的に判断している」と思っています。しかし、実際には自分の考えを証明する情報ばかりを探してしまうのです。
選挙で最も分かりやすく現れる確証バイアス
このバイアスは、選挙になると非常によく分かります。
ある候補者や政党を支持すると、その人の演説や応援する記事、動画ばかりを見るようになります。
一方で、反対の立場の意見は、
「偏った情報だ」
「信用できない」
と受け流してしまいます。
逆に、支持していない候補者については、少しでも悪い情報があると、
「やっぱりそうだった。」
と受け止めやすくなります。
つまり、人は事実によって考えを変えるのではなく、自分の考えに合う事実を選んでしまうのです。
検索エンジンも確証バイアスを強める
現在では、多くの人がインターネットで情報を調べます。
しかし、検索した人の多くは最初のページしか見ないと言われています。
さらに検索エンジンは、利用者が知りたいと思われる情報を優先して表示します。
例えば、
「○○は危険」
と検索すれば危険性を説明する記事が並び、
「○○は安全」
と検索すれば安全性を説明する記事が並びます。
どちらも事実の一部ですが、最初のページだけを見れば、
「世の中はこうなんだ。」
と思い込んでしまいます。
SNSも同じです。
自分が興味を持つ内容ほど似た情報が次々と表示されます。
気付かないうちに、自分と同じ考え方ばかりが集まり、
「みんなも同じ意見だ。」
と思い込んでしまうことがあります。
確証バイアスは悪いものではない
では、確証バイアスは悪い心理なのでしょうか。
実はそうではありません。
私たちの周りには膨大な情報があります。
そのすべてを毎回公平に調べていたら、一つの判断をするだけでも大変な時間がかかります。
そのため脳は、
「まずは自分の考えに近い情報を集めて素早く判断する」
という省エネルギーの仕組みを持っています。これが確証バイアスです。人間が限られた認知資源で効率よく判断するための自然な働きであり、ヒューリスティック(経験則による判断)の一つと考えられています。
現場でも同じことが起きている
この心理は、安全の現場でも毎日のように起きています。
例えば職長が、
「今日は問題ない。」
と思って現場を見ると、
・安全帯を使用している。
・作業手順どおり進んでいる。
そんな安全な場面ばかりが目に入りやすくなります。
その一方で、
・足場板の浮き
・工具の置き忘れ
・新人作業員の不安そうな様子
といった危険のサインを見落としてしまうことがあります。
災害心理学の分野でも、一度「今回は大丈夫」と判断すると、その判断を支持する情報ばかりに目が向き、新しい危険情報や警報を軽視しやすくなることが指摘されています。
大切なのは「反対の情報」を探すこと
確証バイアスをなくすことはできません。
しかし、知っているだけで行動は変えられます。
何かを判断するときは、
「反対の意見はどうだろう。」
「自分の考えが間違っている可能性はないだろうか。」
と一度立ち止まるだけで、視野は大きく広がります。
安全も同じです。
「今日は大丈夫。」
と思ったときほど、
「本当に危険はないか。」
という逆の視点で現場を見ることが事故防止につながります。
人は見たいものを見ているのではありません。
自分が信じていることを証明する情報を見ているのです。
確証バイアスを知ることは、自分を否定することではありません。
より広い視野で物事を判断し、安全な行動につなげるための第一歩なのです。