
お風呂に入り、リビングで少しくつろぎ、それから2階の自分の部屋へ向かう。
私には毎日のように繰り返している、ごく普通の生活の流れがあります。
お風呂上がりにはパジャマに着替えます。その時に新しいシャツは翌日着るために2階へ持って上がるのが習慣です。
ところが、ここ2〜3回続けて、そのシャツを持って上がることを忘れてしまいました。
「あれ?また忘れた。」
そんな小さな出来事ですが、心理学的にはとても興味深い現象です。
忘れたのではなく「途中で消えた」
このようなミスは、リーズンが分類したヒューマンエラーの「ラプス(Lapse)」に当たります。
ラプスは「やるつもりだったのに、途中で記憶から抜け落ちてしまうミス」です。
「シャツを持って上がろう。」
そう考えたこと自体は覚えています。
ところが、リビングでくつろいだことで、頭の中で保持していた「シャツを持って行く」という情報が消えてしまったのです。
これは能力不足ではありません。
人間の脳の仕組みそのものなのです。
ワーキングメモリには限界がある
私たちは何かを一時的に覚えて行動するとき、「ワーキングメモリ」を使っています。
しかし、この容量は決して大きくありません。
途中で別のことを考えたり、テレビを見たり、スマートフォンを触ったり、少し休憩しただけでも、新しい情報が入り込みます。
すると、
「シャツを持って行く」
という情報が押し出されてしまうのです。
つまり、
忘れたのではなく、記憶を保持できなかった。
これがラプスです。
建設現場でも同じことが起きている
この現象は家庭だけではありません。
例えば建設現場では、
「工具を持って行こう」
と思って歩き始めたのに、
途中で別の作業を頼まれ、そのまま現場へ向かってしまう。
「あっ、工具を忘れた。」
これも全く同じラプスです。
だから現場では、
- 指差呼称をする
- チェックリストを使う
- 声に出して確認する
といった仕組みで、記憶に頼らない工夫をしています。
小さなラプスを笑わない
今回忘れたのはシャツでした。
困ることはあっても事故にはなりません。
しかし、このような小さなラプスは、脳が「今日は少し認知資源が不足しているよ」というサインでもあります。
このサインに気付ける人は、大きなミスの前に立ち止まることができます。
反対に、
「こんなことぐらい大丈夫。」
と思ってしまうと、別の場面でも同じようなラプスが起こるかもしれません。
Stop・Look・Think
私は最近、「また忘れた」と気付いたとき、自分を責めるのではなく、
「なぜ忘れたのだろう?」
と考えるようにしています。
これこそがメタ認知です。
自分を一歩離れたところから観察し、脳の働きを理解する。
人はミスをします。
しかし、そのミスから学ぶこともできます。
だからこそ、日常の小さなラプスを見逃さず、自分自身を観察することが、安全につながる第一歩なのだと思います。