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年齢を重ねることと、経験から学ぶことは同じではない

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2026.09.03

先日、ビジネス街にあるカフェで昼食をとっていた時のことです。

まだ12時前でしたが、年配の男女が多数で店に入ってきました。そして、それぞれ席について話を始めました。

もちろん、何も悪いことではありません。

カフェは誰でも利用できる場所です。お金を払って飲食している以上、「高齢者だから昼時に利用するな」などという話ではありません。

しかし、その光景を見ながら、私は少し違ったことを考えていました。

「私なら、この時間は少しずらすだろうな」

ここは住宅街のカフェではありません。ビジネス街です。

もうすぐ12時になります。

12時になれば、昼休みに入ったビジネスマンやビジネスウーマンが一斉に店へやって来ます。実際、その後、多くの人が入ってきてレジに並び始めました。

会社員の昼休みは、多くの場合、自由に時間を変えることができません。

一方、仕事を引退した人など時間に比較的余裕があるのであれば、11時頃に来ることもできます。あるいは、12時半、13時と時間をずらすこともできます。

私は、「高齢者が席を占めていて、けしからん」と思ったわけではありません。

むしろ疑問に感じたのは、

「長い人生経験を持っているはずなのに、その経験が周囲への予測につながらないのだろうか」

ということでした。

年齢を重ねることと、経験を生かすことは違う

長く生きていれば、当然さまざまな経験をします。

会社員として働いた経験のある人なら、昼休みの時間が限られていることも知っているでしょう。ビジネス街の飲食店が12時になると混雑することも、何度も経験しているはずです。

しかし、経験したことと、その経験を現在の行動に生かすことは同じではありません。

今日のカフェなら、

「ここはビジネス街だ」

「もうすぐ12時になる」

「会社員が昼休みに入る」

「この店も混雑するだろう」

「会社員は昼休みの時間を自由に変えにくい」

「私は時間を変えることができる」

「それなら少し時間をずらそう」

ここまで考えて初めて、過去の経験が現在の行動につながります。

つまり、経験とは持っているだけでは十分ではありません。

経験を使って、このあと何が起こるのかを予測する。

そこに経験の本当の価値があるのではないでしょうか。

人は「今」を基準に判断する

ただし、ここで相手を批判するだけでは心理学にはなりません。

人間は、いつも周囲の状況を細かく分析して行動しているわけではありません。

「席が空いている」

「友人とお茶を飲みたい」

「だから座る」

これだけで行動するのも、ごく自然なことです。

人間は限られた情報と認知能力の中で判断します。菊池聡先生の論文でも、人間はすべての情報を把握して完全に合理的な意思決定をするのではなく、さまざまな制約の中で「限定合理的」に判断すると説明されています。

また、人間は思考のコストを節約しながら、素早くおおむね良い判断をするヒューリスティクスを使っています。これは普段の生活には欠かせない仕組みですが、必ずしも正しい判断につながるとは限りません。

だからこそ、一度立ち止まって考えることに意味があります。

「私はなぜ、そう感じたのか」と考えてみる

ここで重要なのがメタ認知です。

「どうして、この人たちは時間をずらさないのだ」

で終われば、単なる他人への評価です。

しかし、

「なぜ私は時間をずらした方がいいと感じたのだろう」

と、自分自身へ視点を戻してみる。

私は、現在の店内だけを見ていたのではありません。

「もうすぐ12時になる」
「人が増える」
「席が必要になる」

と、少し先の状況を予測していたのです。

菊池先生も、リスク認知にはバイアスがかかっている可能性を自覚し、自分自身の認知の働きを認識して行動を制御する過程を「メタ認知」と説明しています。

これは日常生活だけでなく、安全を考える上でも非常に重要な能力です。

ベテランとは「経験年数の長い人」なのか

建設現場でも同じことがあります。

「この仕事を30年やっている」

確かに、それは大きな経験です。

しかし30年間事故がなかったことを、

「今まで大丈夫だった。だから今回も大丈夫だ」

と考える材料にしてしまえば、経験がかえって危険を見えにくくすることがあります。

実際、リスク認知に関する資料でも、「なじみ」や過去の経験によってリスクを小さく評価してしまう例として、ベテランバイアスや正常性バイアスが取り上げられています。

一方、同じ30年間の経験から、

「この状況は、以前のあの時と似ている」

「このまま進めば、次にこんなことが起こるかもしれない」

「だから今のうちに手を打っておこう」

と考えられる人もいます。

私は、こちらが本当の意味でのベテランではないかと思います。

経験を「未来の予測」に変える

経験年数が増えれば、自動的に判断力が高くなるわけではありません。

大切なのは、

経験 → 振り返り → 予測 → 行動

という流れをつくることです。

これは安全管理にもそのまま当てはまります。

事故が起きてから、

「危なかったな」

と振り返るだけではなく、

「この状態が続いたら、次に何が起こるだろう」

と考えて、事故が起こる前に行動を変える。

私がいつも大切にしている、

Stop ― Look ― Think

にもつながります。

Stop――いったん立ち止まる。

Look――自分と周囲の状況を見る。

Think――このあと何が起こるかを考える。

今日のカフェで見たのは、何でもない日常の風景です。

しかし、その風景から改めて感じました。

年齢を重ねることと、経験から学ぶことは同じではありません。

経験とは、過去の出来事をたくさん持っていることではなく、その経験を使って**「このあと何が起こるか」を考え、今の行動を少し変えること**なのではないでしょうか。

そして安全の世界でも、

経験年数ではなく、経験を次の予測に使える人こそ、本当のベテランなのだと思います。

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