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「長いエスカレーター」が一瞬で終わった理由 ~時間は時計ではなく脳が決めている~

ブログ

2026.07.12

先日、神戸・三宮の地下鉄駅で、ふと面白い体験をしました。

地下鉄三宮駅には、とても長くて深いエスカレーターがあります。

普段なら、
「まだ着かないのかな」
「長いなぁ」
と感じる場所です。

ところが、その日は電話で話しながらエスカレーターに乗っていました。

気が付くと、もう改札階。

「えっ、もう着いたの?」

本当に一瞬に感じたのです。

同じエスカレーター。
同じ時間。
違うのは「電話で話していた」ことだけです。

実は、この現象は心理学や脳科学でよく説明できる現象です。

脳は時間を測っているわけではない

私たちは「時間は時計が決める」と考えています。

しかし、人間が感じる時間は、時計ではなく脳が作り出しています。

心理学では、この現象を説明する考え方の一つとして「注意のゲート制御モデル(Attention-Gate Model)」があります。

脳の中には、時間を刻む「時計」と、その情報を受け取る「ゲート(門)」があるように考えます。

何もしていない時

エスカレーターに乗っているだけだと、

「まだかな」
「長いな」

と自然に時間へ注意が向きます。

すると、時間を数えるゲートが大きく開き、多くの時間情報が脳へ入ってきます。

その結果、

「長く感じる」

のです。

電話で話している時

一方、電話中は違います。

相手の話を理解し、
自分は何を話そうか考え、
言葉を選びながら会話を続けています。

脳の注意は会話に集中しています。

すると、時間を数えるゲートがほとんど閉じてしまいます。

脳は時間を十分に記録できないため、

「あっという間だった」

と感じるのです。

ワーキングメモリは一度にたくさんの仕事ができない

もう一つ関係しているのが、

ワーキングメモリ(作業記憶)

です。

これは「今、この瞬間に使える脳の作業スペース」のようなものです。

何もしていないと、

  • まだ着かない
  • 長いな
  • 疲れるな

という余計なことまで考える余裕があります。

しかし電話中は、

  • 相手の話を理解する
  • 内容を記憶する
  • 返答を考える
  • 話す

これだけで脳はほぼ満員になります。

つまり、

時間を感じるための空き容量がなくなる

のです。

「退屈」は時間を長くする

心理学では、

退屈な時間ほど長く感じ、夢中になっている時間ほど短く感じる

ことが知られています。

エスカレーターに乗るだけなら受動的な時間ですが、電話で会話を始めると、脳は能動的に活動します。

興味や集中が高まることで、主観的な時間は一気に短く感じられます。

現場でも同じことが起きている

この現象は、建設現場や工場でも重要です。

単純作業を繰り返していると、

「まだ終わらない」
「あと何分だろう」

と時間ばかり意識してしまいます。

一方で、トラブル対応や難しい作業に集中している時は、数十分が数分に感じることがあります。

しかし、ここには注意が必要です。

集中しすぎると、時間だけではなく周囲への注意まで狭くなることがあります。

安全確認がおろそかになったり、休憩や水分補給を忘れたりする危険があります。

特に夏場は、作業に没頭するあまり「気付けば1時間以上、水を飲んでいなかった」ということも珍しくありません。

だからこそ、安全管理では、

「時間が来たら必ず休憩する」

というルールが必要になります。

人は、自分が感じる時間をあまり信用できないからです。

まとめ

私たちは「時計の時間」を生きているようで、実際には「脳が感じる時間」を生きています。

だから、

  • 楽しい時間は短く感じる。
  • 退屈な時間は長く感じる。
  • 集中すると時間を忘れる。

これは決して気のせいではなく、脳の働きによる自然な現象なのです。

今回、三宮駅の長いエスカレーターで改めて感じました。

普段なら長く感じる時間が、電話一本で一瞬になる。

時間そのものは変わっていません。

変わったのは、「時間」ではなく、それを感じている私たちの脳だったのです。


参考資料(楽しく読める論文・文献)

  • Daniel Kahneman・Amos Tversky「Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases」
  • Daniel Kahneman『ファスト&スロー』
  • Zakay, D. & Block, R. A.「Attention-Gate Model of Prospective Time Perception」
  • 菊池 聡「災害における認知バイアスをどうとらえるか ―認知心理学の知見を防災減災に応用する―」
  • 小松秀徳・杉山大志「リスク認知バイアスの進化心理学的な解釈」

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