
前回は、「日本人は集団主義で、同調性が高い」という考え方が、どのように広まったのかを紹介しました。
しかし、高野陽太郎先生は、ここで一つの疑問を投げかけます。
「本当に日本人は欧米人より同調しやすいのだろうか。」
思い込みではなく、実際の研究結果を調べてみると、意外な事実が見えてきました。
通説を実際の研究で検証した
高野先生と纓坂英子先生は、日本人とアメリカ人を比較した多くの研究を詳しく調べました。
すると、「日本人は集団主義である」という通説を裏付ける明確な証拠は、ほとんど見つかりませんでした。
むしろ、一部の研究では、日本人の方がアメリカ人よりも個人主義的な結果さえ報告されていました。
つまり、
「日本人は集団主義だから同調しやすい。」
という通説ほど、日本人とアメリカ人の違いは大きくなかったのです。
アッシュの同調実験でも大きな差はなかった
心理学で最も有名な同調実験といえば、アッシュの同調実験です。
周囲の人がわざと間違った答えを言う中で、自分は正しい答えを言えるのかを調べた実験です。
高野先生が紹介している研究では、
アメリカ人が周囲に同調した割合は約25%。
日本人は約23%でした。
数字だけを見ると、ほとんど違いはありません。
私自身、この結果を読んだ時には少し驚きました。
「日本人はもっと高い」と思い込んでいたからです。
「ウチ」の集団なら違うのでは?
すると今度は、
「知らない人ではなく、自分が所属する集団なら日本人はもっと同調するのではないか。」
という意見が出てきました。
確かに、日本人は会社や学校、地域など、自分が所属する「ウチ」の集団を大切にすると言われています。
そこで、高野先生たちは、同じサークルに所属する学生同士で同調実験を行いました。
その結果、同調した割合は約25%でした。
やはり、アメリカ人との大きな違いは見られなかったのです。
なぜ私たちは「日本人は同調する」と思ってしまうのか
それでは、なぜ今でも、
「日本人は同調性が高い。」
と思ってしまうのでしょうか。
その理由の一つが、人間の持つ確証バイアスです。
私たちは、一度信じた考え方に合う出来事ばかりを記憶し、反対の出来事を見落としてしまいます。
例えば、
電車でみんなが同じ方向へ歩いている。
会議で誰も反対意見を言わない。
学校で周囲と同じ行動をしている。
こうした場面を見ると、
「やっぱり日本人は同調する。」
と思います。
しかし、
独立して起業する人。
会社を辞めて自分の夢に挑戦する人。
周囲と違う意見を堂々と述べる人。
こうした人もたくさんいます。
ところが、そのような事例は私たちの記憶に残りにくいのです。
日本人だからではなく、人間だから
もちろん、日本にも同調はあります。
職場では、周囲が何も言わなければ、自分も黙ってしまう。
避難警報が出ても、誰も逃げなければ、自分も残ってしまう。
危険な作業を見ても、みんなが続けているから止められない。
このような場面は、私たちも数多く見てきました。
しかし、それは日本人だから起こるのでしょうか。
高野先生の研究を読むと、そうではないことが分かります。
人は、自分一人の判断に自信が持てない時、周囲の行動を判断材料にします。
これは、日本人だけではなく、人間に共通する心理なのです。
次回から「同調性バイアス」を考える
私は、安全コンサルタントとして、この結論が最も重要だと思っています。
「日本人だから同調する。」
そう考えてしまうと、本当の原因を見失います。
重要なのは、
人は誰でも同調する可能性がある。
という事実です。
だからこそ、安全管理では、
「みんながやっているから。」
「誰も言わないから。」
という判断が、重大な事故につながることがあります。
次回からは、この「同調性バイアス」について、災害や労働災害など身近な事例を交えながら、一緒に考えていきたいと思います。
参考資料
高野陽太郎・纓坂英子(1997)
「“日本人の集団主義”と“アメリカ人の個人主義”―通説の再検討―」
『心理学研究』第68巻第4号、312―327頁。
高野陽太郎(2008)
『「集団主義」という錯覚―日本人論の思い違いとその由来』新曜社。