
前回までの記事では、高野陽太郎先生の研究をもとに、「日本人は特別に同調性が高い民族ではない」ということを紹介しました。
では、私たちが職場や日常で感じる「みんな空気を読んでいる」「誰も反対意見を言わない」という現象は、何なのでしょうか。
今回は、その正体について考えてみます。
会議で反対意見が出ない理由
多くの会社では、会議になると発言する人がある程度決まっています。
経験豊富な人、役職者、声の大きい人の意見が中心となり、会議が進んでいくことは珍しくありません。
一方で、
「私は違う考えだけど…」
「危ないと思うけど言いにくい。」
そう感じながらも、何も発言しない人もいます。
その結果、反対意見が出ることなく会議は終わり、
「全員が賛成した。」
という結論になってしまいます。
しかし、本当に全員が賛成していたのでしょうか。
同調と心理的安全性は違う
ここで大切なのが、「同調」と「心理的安全性」を区別して考えることです。
同調とは、自分の考えよりも周囲に合わせようとする心理です。
一方、心理的安全性とは、
「自分の考えを安心して発言できる環境があるかどうか」
という組織の状態を表します。
つまり、
「周りに合わせたい。」
のではなく、
「言いたいけれど言えない。」
という状態であれば、それは心理的安全性の問題なのです。
沈黙は承認になってしまう
組織では、
「反対意見がない=全員が賛成している」
と受け取られることがあります。
つまり、
沈黙は承認
として扱われてしまうのです。
そのため、本当は危険だと思っていても発言しなければ、「全員が納得した」と判断されます。
広い意味では、これも周囲に合わせた「同調」と見ることができるかもしれません。
しかし、その背景には、
「発言すると否定されるかもしれない。」
「雰囲気を壊したくない。」
「自分だけ反対するのは嫌だ。」
という心理が存在していることも少なくありません。
安全の現場でも同じことが起こる
建設現場でも、
「危ないと思いました。」
「少し気になりました。」
という声が、事故の後になって聞かれることがあります。
もし、その一言が作業前に言えていたら、事故は防げたかもしれません。
事故の原因を「同調バイアス」と一言で片付けるのは簡単です。
しかし実際には、
- 心理的安全性が低かった。
- 反対意見を言いにくい雰囲気だった。
- 周囲も何も言わなかった。
- 「大丈夫だろう」と考えてしまった。
このように、さまざまな心理が重なって事故は起こります。
安全な職場とは
安全な職場とは、ルールが多い職場ではありません。
「危ないと思います。」
この一言が誰でも言える職場です。
反対意見を言っても否定されない。
質問をしても笑われない。
「分からない」と言っても責められない。
そんな環境があって初めて、人は安心して自分の考えを伝えることができます。
これが心理的安全性です。
おわりに
同調バイアスを理解することは大切です。
しかし、それ以上に大切なのは、
「なぜ人は周囲に合わせてしまうのか。」
その背景を考えることです。
もし職場で反対意見が出ないのであれば、それは社員が同調しているからではなく、安心して発言できる環境が整っていないだけかもしれません。
安全文化は、ルールだけでは育ちません。
一人ひとりが安心して「それは危険です」と言える職場づくりこそが、本当の安全への第一歩なのです。