
これまで正常性バイアス、確証バイアス、同調性バイアスについて紹介してきました。
今回は「楽観性バイアス(Optimism Bias)」です。
楽観性バイアスとは、
「悪いことは自分には起こらない」と無意識に考えてしまう心理です。
決して「前向きな考え方」が悪いという意味ではありません。
未来に希望を持つことは、人が生きていくうえでとても大切です。
しかし、安全の世界では、この楽観性が事故につながることがあります。
実際、災害心理学でも「自分は被害を受けない」という考えが避難の遅れにつながることが指摘されています。
日常にもある楽観性バイアス
例えば車を運転していて、
「今日は疲れているけれど大丈夫。」
「スマホを少し見るくらいなら問題ない。」
そんな経験はありませんか。
また健康診断で再検査と言われても、
「まだ大丈夫。」
「来年受ければいい。」
と先延ばしにする人も少なくありません。
台風が近づいていても、
「今まで大丈夫だったから今回も大丈夫。」
と思ってしまうのも楽観性バイアスです。
実際には事故や病気は誰にでも起こる可能性があります。
しかし人は、自分だけは例外だと考えやすいのです。
建設現場ではどう現れるのか
建設現場では、このバイアスは非常に危険です。
例えば、
- 「安全帯を掛けなくても数分だから大丈夫。」
- 「脚立を少し横へ乗り出しても落ちない。」
- 「今日は暑いけど、自分は熱中症にならない。」
- 「この重機は何年も運転しているから事故は起きない。」
このような考えは、事故を経験していないからこそ生まれます。
事故が起こらなかった経験が積み重なるほど、
「今回も大丈夫。」
という自信に変わっていきます。
しかし事故とは、
「大丈夫だった日」の延長線上で突然起こるものです。
だからこそ、経験豊富なベテランほど注意が必要なのです。
楽観性バイアスは悪いものではない
実は、このバイアスがなければ人は毎日不安で生活できません。
「事故に遭うかもしれない。」
「病気になるかもしれない。」
「失敗するかもしれない。」
そんなことばかり考えていたら、自転車にも乗れず、新しいことにも挑戦できません。
つまり、
楽観性バイアスは、人が前向きに生きるために必要な心の働きでもあります。
ただし、安全管理では話が変わります。
危険を前にしたときだけは、
「自分も事故に遭うかもしれない。」
という視点を持つことが重要になります。
安全管理に必要なのは「自分も例外ではない」という意識
事故は、不注意な人だけが起こすものではありません。
真面目な人も、経験豊富な人も事故に遭います。
だから現場では、
- 指差呼称をする。
- KY活動を行う。
- 危険予知を共有する。
- ダブルチェックを行う。
これらは技術ではなく、
楽観性バイアスを打ち消すための仕組みでもあります。
「自分だけは大丈夫。」
そう思った瞬間が、一番危険なのかもしれません。
まとめ
楽観性バイアスは、人が前向きに生きるためには必要な心理です。
しかし、安全の世界では事故を招く原因にもなります。
事故は「自分には起こらない」と思った瞬間から始まります。
だからこそ、安全管理で最も大切なのは、
「自分も例外ではない」という視点を持つこと。
それが、自分の命を守り、仲間の命を守る第一歩になるのです。
参考資料
- 菊池 聡「災害における認知バイアスをどうとらえるか ― 認知心理学の知見を防災減災に応用する」
- 小松秀徳・杉山大志「リスク認知バイアスの進化心理学的な解釈」
バイアスを完全になくすことはできません。
しかし、バイアスについて知っていれば、「今の自分は、バイアスに影響されているのではないか」と気付くことができます。
その時に大切なのが、Stop・Look・Thinkです。
まず立ち止まる。
次に、自分の考えや周囲の状況を見直す。
そして、別の見方や判断がないかを考える。
このように、自分の考えを一歩引いて見つめ直すことがメタ認知です。
バイアスを知ることは、単に心理学の用語を覚えることではありません。自分の判断を見直し、より安全な行動につなげるために必要なのです。