
毎朝の通勤で橋を渡っていると、あることに気づきました。
橋には歩道があり、欄干側(川側)と車道側があります。
多くの人は、欄干側を歩きたがるのです。
私は以前まで何も考えずに歩いていましたが、今では向こうから人が来ると、自分から車道側へ移動するようにしています。
すると、不思議なことが分かってきました。
こちらが譲らなければ、そのまま欄干側を歩き続ける人が非常に多いのです。
もちろん、これは「その人が悪い」という話ではありません。
実は、人間の心理としてごく自然な行動なのです。
人は「見えている危険」から離れたくなる
心理学では、人は危険を感じる対象から距離を取りたがることが知られています。
橋の上であれば、車道には車が走っています。
一方、欄干の向こうは川です。
もちろん、現実には欄干があるため、川へ落ちる危険はほとんどありません。
しかし、車は目の前を走り、音も振動もあります。
人間の脳は、このような目に見える危険に強く反応します。
そのため、多くの人は無意識のうちに「車道から少しでも離れたい」と考え、欄干側を選んでしまうのです。
これは危険回避という、人間に備わった本能でもあります。
「今いる場所」を変えたくない心理
さらに働いているのが、現状維持の心理です。
一度歩く位置を決めると、人はできるだけそのまま歩き続けようとします。
相手が近づいてきても、
「このまま行けるかな」
「相手が避けるだろう」
と無意識に考えてしまいます。
これは怠けているのではありません。
人間の脳はできるだけエネルギーを使わずに行動したいという性質を持っています。
ほんの一歩横へ動くだけでも、脳は「今のままでいい」と判断しやすいのです。
私が車道側へ移る理由
では、なぜ私は先に車道側へ移るのでしょう。
以前は何も考えていませんでした。
しかし、安全心理学を学んでからは、
「相手は欄干側を歩きたいだろう」
と考えるようになりました。
つまり、自分の立場ではなく、相手の立場から状況を見るようになったのです。
このような考え方を心理学ではメタ認知と言います。
自分を一歩外から見て、
「今、自分はどう行動すれば、お互いが安全で気持ちよく通れるだろう」
と考えることです。
わずか一歩横へ動くだけですが、その一歩には「相手を見る視点」が含まれています。
建設現場でも同じことが起きている
この話は橋の上だけではありません。
建設現場でも、
「自分は危険ではない」
ではなく、
「相手から見たら危険ではないか」
という視点がとても大切になります。
重機のオペレーターから見える景色と、地上で作業する人から見える景色は違います。
職長から見える景色と、新人から見える景色も違います。
事故は、自分の視点だけで仕事を進めたときに起こります。
一方で、相手の立場から状況を見ることができれば、多くの危険は事前に防ぐことができます。
一歩譲ることは、一歩先を考えること
橋の上で車道側へ一歩移る。
たったそれだけの行動ですが、私は毎朝、人間の心理を観察しています。
人は本能のまま行動すると、自分にとって安心な場所を選びます。
しかし、ほんの少し立ち止まり、
「相手はどう感じているだろう」
と考えられたとき、その行動は大きく変わります。
安全とは、大きな設備やルールだけで作られるものではありません。
相手の立場を想像して、一歩譲る。
その小さな行動の積み重ねが、安全な社会や安全な職場をつくっていくのだと思います。
おわりに
私は毎日の何気ない出来事を、「なぜ人はそう行動したのだろう」と考えるようにしています。
これこそがメタ認知です。
Stop(立ち止まる)
Look(周りを見る)
Think(考える)
橋の上でのたった一歩も、建設現場での安全確認も、本質は同じです。
人はミスを犯します。しかし、人は考えることで事故を防ぐこともできます。
今日、あなたは誰かのために「一歩譲る」ことができるでしょうか。そこから、安全は静かに始まるのだと思います。